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「たとえば、彼の思う正義が我々の正義ではなかったとしたら、クーデターの遂行という彼の取った行動に矛盾は生じないのではありませんか?」
おそるおそる鏑木が口をはさんだ。
「せ、正義とはただ一つです。仮に草間凪人が我々の崇高なる目的を理解しなかったとしたら、それが彼の、オリジナルの限界なのです」
その質問に対する三木の回答はかなり興奮気味で、まるで口角から泡を吹きださんばかり。
三木の視界に彼の窮地を愉しげに見やるアリスの顔が入ってきた。
あらゆるデータが、アリスもとい有栖が反社会的パーソナリティの持ち主であることを示していた。
(この化け物め)
三木は有栖に対する激しい憎悪をかろうじて抑え込んだ。
「いずれにしても今回の不祥事の非を一方的に負うことになったサクラ重化学はまずい立場におかれている。政府も民意に押されて我が社の責任を追及しようとしている。せめて後始末はうまくやってほしいものだ」
雲林院は苦言を呈した。
「我々の計画は主要国の上層部(インナーサークル)の承認を得ています。政府とて干渉できない」
三木は語気を強めた。
「もしも草間凪人がネオラッダイトやデジタルアーミッシュのような社会活動家たち、あるいはテロリストやハッカーのような犯罪集団と連携しようとしたら」
鏑木がまたやっかいな質問を仕掛けてきた。
「現時点で草間凪人は要求を一切出していません。我々にも、政府に対しても。またいかなる勢力とも手を組んだという兆候は見られません。彼は我々と交渉する気すらないのでしょう。やっていることは物理的な破壊活動と略奪行為です。あらゆる個人データを消し去り、改ざんし、我々のデータマイニング能力を無力化させようとしています。また様々な商業的なPOSシステムに侵入して資源を彼らの時空へと転送しています」
三木に代わってカンナが回答を示した。
「それは確かなのでしょうが、三木さんから提供を受けたハッキングの手口を解析したところ、また別の意図が見えるのですが」
鏑木が自らの見解を口にした。
「彼はこの膨大に広がるクラウド空間であるものを探しているように思えるのです」
「それは少し穿ち過ぎでしょう。この件におけるアリス、いいえ有栖の介入を許可します。とにかく星川樹をうまく引き込むのです。彼はふたつの世界をつなぐブリッジである可能性が高いのですから」
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