第2話 Twitter

小林アヤ。


高校の時のクラスのアイドル。

同学年は勿論、上の学年にもその名を轟かせた美少女だった。

飯田も他の純情な童貞と同じように彼女に憧れていた。


「小林さんってまさかあの小林さんじゃないよな?」


高校卒業以来、牛田とは会ってない。小林さんに至っては一度も会話をしたことがなかった。

飯田は灯りを消した部屋でベッドに寝転びながらスマホを取り上げ牛田に返事を書いた。


”おう、牛田も大学こっちだっけ?久々に会うか。ところで小林さんって誰?”


すぐに返事が来た。


”小林アヤだよ。大学一緒なんだよ。他に吉田とか、青山さんとか大学こっちの連中結構来るよ。同窓会じゃないけどそんな感じ。明日の夜なんだけど、場所は○○で・・・”


すぐに返事を出す。


”うーん・・・忙しいけど久々にみんなの顔みたいから行く”



 飯田は心底興奮を覚えた。

「人生は良いものだ。」

大学に入って初めて良いことが起きたと思った。

飯田はハイテンションになると周りが見えなくなる。そのせいで彼のこれまでの人生は常に周囲から浮き、イジメの標的になったこともあった。

クラス全員からシカトされていた時期もあった。

 牛田はそんな飯田と友達でいた数少ない人間の一人だったが、飯田は牛田に感謝する気持ちなどは微塵もなく、ニコニコ生放送のハンドルネーム「イーアル」名義のTwitterに書き込み続けた。


イーアル@多忙につき放送未定 @iiiaruaruiida11111

\( 'ω')/ウオオオオオオオオオオ

忙しすぎる!!!

明日も飲み会だ!!明日は高校時代の親友たちと久々に会う!!

最近リアルが忙しすぎ!!


イーアル@多忙につき放送未定 @iiiaruaruiida11111

眠る暇がねえ!!全然寝てない!!!!


 飯田はこうやって自分を演出する傾向があったが殆どの人間にはその嘘がすぐにバレた。

飯田に親友がいたことはないし、自分と違って異性にも同性にもモテる牛田のことも「いけ好かない野郎」と思っていた。

 この日もこのTwitter連投で数少ない彼のフォロワーが三人減った。

しかし飯田はそんなことは全く気にならなかった。

明日は小林アヤに会えるんだ。


「この世にこれ以上素敵な事はない」


飯田はそう思った。

そして明け方頃、漸く彼は眠った。

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