外法6 恐怖の密室刑音ライブラブゥ~

 昼食や夕食、食事の時間外でも店に赴く客の姿が絶えない個人経営の回転寿司店「美味い鯉」。店の右奥の席では、悪の王道外道を突き進む、はた迷惑追求所の幹部達が今日も今日とて屯していた。

「はい、姫ちゃんの玉子寿司。ワイズさんは…つぶ貝ですね。」

個別注文の皿を運ぶ店の看板娘、海参千佳は、今日も元気はつらつとして店の手伝いに励んでいる。彼女から寿司を受け取り、可愛らしい小口で一生懸命頬張る17姫は、緊張した様子で咀嚼したものをゆっくりと飲み込んだ。

「17姫、大丈夫かい?君には後が無い。しばらくは僕が任務を遂行してもいいんだよ?」

コリコリとつぶ貝を噛む音を鳴らしながら、ミスターワイズマンコォォォゥは、手に持つペンを回してどこか挑発的な笑みを見せる。17姫は一度茶で喉を潤すと、大きく深呼吸をして、彼の提案を退けた。挑発的な態度が、彼女の闘志を焚きつけ、緊張感を吹き飛ばしてくれた。

「大丈夫 私にミスは 二度と無し 成果を以って 生花とならん!」

「汚名返上して、成果を出し、生花のように自然なままの悪へと返り咲く。前の二人のようにならないことを祈っているよ。」

「おっけぇ~にょ!」

任務開始のOKサインと掛け声を上げ、17姫は千佳にお勘定を手渡すと、席を立ち上がった。店の出口へと向かおうとする17姫に、ミスターワイズマンコォォォゥは、手に持っていたペンを17姫に差し出す。

「何これは ディスイズアペン ただのペン?」

「御守り代わりに持っていってくれ。万一のことだってあるだろう?」

ミスターワイズマンコォォォゥはすまし顔でペンを前後させる。訝しい表情から、彼の胸の内を察したのか、17姫はペンを奪うように取り、着物の胸の付近に挟んだ。

「わかったよ これでいいだろ だがしかし 得られたものは 無駄になるだけ。」

「だから『万が一』なんだよ。気をつけてね、17姫。」

「・・・・・ 心にもない ことを言う。」

17姫は再び歩を進めて店を出ていった。彼女を見送るとすぐに、ミスターワイズマンコォォォゥはカバンからノートPCを取り出して起動する。

「姫ちゃんに御守りなんて…ワイズさん、もしかして姫ちゃんのこと!?キャー!!」

「そんなわけないだろ…。JSに年の離れた男がそういう感情を抱いたら、それもはや事案でしかないから。…それぐらい猿でも理解できるだろうにぶつぶつぶつ…。」

一人頬を染めて妄想を膨らませる千佳を余所に、キーボードを打ちながら、残りのつぶ貝に手を伸ばすミスターワイズマンコォォォゥ。つぶ貝を掴む刹那、それを制止するように、彼の腕は一人の男に掴まれていた。手を掴む人物にミスターワイズマンコォォォゥは驚き、PC画面から目を離す。

「え、首領…?」

首領が動いた。あの首領が。帰りたい中毒のあのすっとこどっこいが。首領は、強張った顔でミスターワイズマンコォォォゥを睨み、ゆっくりと首を左右に振った。

「手を、拭こう。」

「…へ?」

「手を拭こう!PCのキーボードは、トイレの便器よりも雑菌が多くて汚いって、テレビで専門家が言ってたっす。腹を壊してからでは遅いっすよ。」

「あ、うん…ありがとう。」

首領は、ミスターワイズマンコォォォゥに新しいおしぼりを手渡すと、満足そうに流れてきたイクラ巻きを取り、口に運んだ。

「うん!美味い!良いことした後のイクラは格別なんで、帰っていいっすよね?」

そしてこの一言である。「勿論!お疲れさんっしたー!」などとは口が裂けても言いたくない。反省文を10枚書き上げるまで、帰してたまるかなのだ。はい、原稿用紙10枚。

「えぇ…自分、学生の時、国語3だったんすよ…10段階で。」

頑張って。

「…ういっす。」


 肩叩き県北西部に位置する、高さ3000mほどの山、鯨湖山げいこさん。四季折々の姿を我々に見せてくれて、この山にしか育たない高山植物や野鳥獣もまた、訪れた人々の目を楽しませてくれる。冬には雪が積もり、スキー場としても活用され、観光やレジャーを楽しむ客で賑わっている。この山の上部を目指す際に利用されるのがゴンドラだ。箱型の乗り物に入り、山の上部に渡されたケーブルを伝ってゆっくりと上っていく。山の麓を見下ろしたり、紅葉の季節には山の斜面を覆う色彩を楽しんだり、遠方に見える町々を眺めたりなど、ここでしか見られない山の様々な表情が楽しめると、観光客に人気の乗り物だ。向かい合う形でイスが設置され、一台のゴンドラには大人6人が乗り込めるようになっている。山頂を目指す人々の足にもなるそのゴンドラに、今回、悪の一団は目をつけたのだ。

 ゴンドラ乗り場にて、ゆっくりと流れてきたゴンドラを係員が手で押さえながら、入り口を開く。乗り場にやってきた夫婦は、別の係員に乗車チケットを切ってもらい、帰り用のチケットを返却され、ゴンドラへと向かった。

「足元にお気をつけてご乗車下さい。」

ゴンドラを押さえていた係員の指示を受け、ゆっくりと動くゴンドラに夫婦は素早く乗り込む。

「それでは、行ってらっしゃいませ。」

係員がゴンドラのドアを閉め、オートロックされたことを確認し、ゴンドラから手を離して、夫婦を乗せた箱舟を見送った。乗り場を出て、ゆっくりと体を揺らして上へ上へと上っていく。乗り場や後方の地面が徐々に小さくなっていき、眼下に広がる山の斜面には青々とした木々が生い茂っていた。

「パンフレットに書いてあったんだけど、秋にはイチョウやら楓やら紅葉やら、鮮やかに染まって綺麗なんだって。」

「へぇ。それじゃあ秋にもう一度、今度は子供達を連れて来ようか。」

「ふふ、そうね。大学やアルバイトの都合がつく日があるといいんだけど。」

雄大な自然の景色を楽しみながら、夫婦は次の旅行を楽しみにして話に華を咲かせていた。

「御夫婦さん、そんなあなた方のために、素敵な出会いを祝し、一曲、歌わせてください…。」

夫婦の空間に割って入る一つの声。彼らの向かい側の席には、腰まで伸びた黒い髪に、白く顔を塗りたくり、左右の目の部分にそれぞれ星とハートが描かれたピエロのようなメイク、「まくらの!」と大きく書かれた黒いTシャツにダメージジーンズを穿いた奇妙な出で立ちの女が、マイクを片手に座っていた。女の横の席には、異様にスピーカー部分の大きいラジカセが置いてある。

「なっ、何だ君は!?」

困惑する夫婦を前に、女はラジカセにカセットを入れると、巻き戻してから再生ボタンを押した。女の座高ぐらいの高さがあるスピーカーから、大音量で何かの歌の前奏が始まる。

「う、うるさいっ!!!!」

「とっ、とめてぇぇぇぇ!!!!」

耳を塞いで苦しむ夫婦。対照的に女は音楽に合わせて体を揺らし、ノリに乗っていた。

「美しい夫婦愛を交わすお二人に送る四季の歌…聴いてください。枕のTHOUGH SHE。」

前奏が終わるタイミングを見計らって、女はマイクの音量を最大に引き上げ、目を見開いておぞましい奇声と共に叫び始めた。

「ぅああああああああああああああああああぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」

「み、耳がぁぁぁ!!!」

「ひぎいいいいい!!!」

鼓膜が破けそうな勢いで密閉空間を暴れるヘビメタ調の轟音と、それすらも超える声量の女のシャウト。ライブハウスと化したゴンドラの中で、女のデスボイスに夫婦の悲鳴はかき消され、ただただ身悶えることしかできない。

「ぅぅ春はははははははははぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーアァ↑↑↑ーーーーーーーーーーーーー!!SAY!!あ~~~~~~け~~~~~~~~ぼ~~~~~~の~~~~~~~!!!!!あけぼおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーぬぉ↑↑↑!!!あけぼぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーぬぉ↑↑↑!!!!!SAY!!!ごっつぁんDEATH!!!!!!!」

内部の音量の作用もあり、体を大きく揺らしながら、ゴンドラは5~10分かけて終着点へと向かった。上部のゴンドラ乗り場に着く頃には、単独ライブは終了して、内部は平静を取り戻していた。上部係員が、やってきたゴンドラに近付いてゴンドラを押さえ、ロックを解除したドアを開いて、乗り込んだ三人に降りるように促す。

「お疲れ様でした。ごゆっくり、お楽しみ下さい。」

女は、耳を塞いだまま気絶した夫婦を外に放り出し、ラジカセを背中に担ぐと、ゴンドラから降りて、出口へと向かった。乗り場入り口付近に設置されたベンチに腰を掛け、自販機で買った水で喉を潤していると、着物姿の少女が、小さく拍手しながら近付いてきた。17姫である。

「素晴らしい 感動ライブ ありがとう。」

「姫っち。こちらこそサンキューだし。姫っちの根回しで、ゴンドラの係員を買収してくれたおかげで、俺ちゃんの歌を皆に届けられるし。」

そう、今回の計画実行のために、17姫は予め、ゴンドラのスタッフに金を握らせ、トラブルがあっても素知らぬ顔をするように手を回していたのだ。

「どいたまよ このまま続けて 歌ってね SAY SHOW A GONE 君に期待す。」

「任せてよ姫っち。俺ちゃんのライブでみんな卒倒させちゃうし。」

SAY SHOW A GONEは、飲みかけのペットボトルを握りつぶし、ゴミ箱に投げ捨てると、マイクを17姫に向けて、自信満々に微笑んだ。このままでは、ゴンドラで運ばれる人々が耳を悪くし、ゴンドラ乗り場には気絶した人々が積み重り、言葉通りの人の山ができて新たな生態系が生み出されてしまう。それによって生じる緑豊かな美しい山の生態系の変遷の危機に、世の生態系学者が心を痛め始めた、その時だった。

「そこまでだ!!」

「んあ?」

「我々の 邪魔をする人 何者ぞ!?」

二人が声のした方を見ると、ゴンドラのケーブルの上に子供が乗る三輪車の前輪を器用に乗せて、ペダルをこぎながら、マントをはためかせてこちらに近付いてくる厳ついがたいの男の姿があった。

「とぁっ!!」

男は終着点付近でサドルを握り締め、三輪車と共に大跳躍し、二人の側に着地。すぐに三輪車を近くの木にチェーンで固定し、盗難防止も完璧である。

「自然保護活動の一環として、山にポイ捨てされるゴミを集めて回っていれば、密かに蠢く悪魔の片鱗を見受けてただいま参上!」

「何このおっさん?全然ノれねーし。」

SAY SHOW A GONEの悪態も気にせず、男は腰に手を回して、ラジカセで爆発音を鳴らすと、怒り猛る偉大な野山の姿を表した、生命の力強さ溢れる決めポーズを披露した。

「私は、キャプテンチップ!!カッコウの鳴き声をセキセイインコのものだと勘違いしても挫けない!キャプテン、チップだっ!!」

「出てきたな キャプテンチップ 悪の敵!」

17姫が、SAY SHOW A GONEに目配せをすると、SAY SHOW A GONEは、17姫の後ろに下がり、ラジカセからカセットを取り出し、裏返してB面再生の準備を始めた。それに構わず、キャプテンチップは右手で作った拳を二人に向けて熱く勇む。

「夫婦のささやかな休日の幸福のひと時を台無しにする悪党どもよ!お前達の悪巧み、獲物を狙い定める鷹の目から逃れられようとも、このキャプテンチップのジャスティススコープからは逃れられないぞ!!」

「変わらずに 暑苦しいな この男 いざ我らの道 阻ませはせん!!」

17姫は耳栓を取り出し、両耳に装着し始める。準備が整ったところで手を挙げると、それを合図にSAY SHOW A GONEはマイクのボリュームを最大限にして、ラジカセの再生ボタンを押した。演歌調の前奏が周囲に響く。

「正義のおっさんに捧げるこの一曲…聴いてください。YOを込めて…。」

前奏が終わる頃に、マイクを握り締め、SAY SHOW A GONEは大きく目を見開き、ドスのきいたデスボイスを展開し始めた。

「YO WOW!!!!!!YO WOW!!!!!!!YOを込めぇぇぇぇぇぇてぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーー!!!!BIRDのぉぉぉぉぉぉSKY SOUNDぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!HER狩るぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅTO MOREぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーー!!!!」

「ぐぅっ!?これは!?」

SAY SHOW A GONEの歌声を耳にした途端、キャプテンチップは体をふらつかせて、地に片膝をつく。両耳を押さえ、頭を不自然に前後左右させていた。

「これみたか A GONEの歌で 平衡の 感覚痺れ 閉口の君!!」

「くぅぅ…三半規管を麻痺させ、平衡感覚を狂わせてしまうとは…。恐ろしい美声だ…!」

「その隙に 私自ら 引導を!!」

17姫は地面に御座を敷き、その上に正座すると、ドクロマークのついた瓶と先が剣山のように尖った茶せん、茶を立てるのに使われる茶碗を並べた。瓶から不気味な色の液体を茶碗に注ぎ、それを練り込むように茶せんの先を液体に浸して茶を立てる要領で動かしていく。

「トリカブト 彼岸の花に スイセンと 綺麗な花の 毒に溺れよ!」

液体は、様々な花の毒を混ぜた毒薬とのこと。満遍なく茶せんに染み込ませ、滴る水分を切ると、その場に立ち上がり、茶せんの先端をキャプテンチップに向けて、投げつける体勢をとった。

「さようなら 嗚呼さようなら さようなら。」

17姫の手から毒茶せんが放たれる。その軌道は、キャプテンチップの胴体中心を目指す一直線。少しでも尖端が刺されば、キャプテンチップの体内を毒が駆け巡り、彼は命を落とすだろう。平衡感覚を奪われ、避ける手立ての無い今、彼の死を受け入れられない人々は思わず目を閉じる。勝利に頬を緩める17姫とSAY SHOW A GONE。次の瞬間、キャプテンチップの雄叫びが、山中に轟くほどに響いた。

「キャプテェェェェェン♪レヴォレヴォレヴォレヴォーーーーーーーーー♪」

歌っている。歌っているのだ、キャプテンチップが。彼の心の戦闘挿入歌である「レヴォリューション・チップ&キャップ」を。エアマイクで。小指を立てて。いや、よく見ると、マイク代わりにしているのは、17姫が投げた毒茶せんだった。

「ななななな 何故に茶せんを 止められた!?」

何事もなかったかのようにキャプテンチップは立ち上がると、耳栓をしている17姫に分かるように、歌いながら後方を指差した。恐る恐る17姫が振り返ると、口を開けて歌っている状態のままのSAY SHOW A GONEが白目を剥いて固まっていた。いつの間にかやられていた彼女の姿に戦慄を覚えつつも、剥き出しの敵意を向けながら、キャプテンチップの方に向き直った。17姫が耳栓を取ると、キャプテンチップは歌うのを止め、茶せんを三輪車にかけてあるゴミ袋に放り投げた。

「やいお前 私の友に 何をした!?」

「平衡感覚と音楽ソウルを痺れさせてくれたお礼をしたまでだ!キャプテンレクイエム!悪しき心を救い、聴く耳持つ良い子ちゃんたちを昇天させる、慈愛の鎮魂歌だ!!」

補足しよう。このキャプテンレクイエムによって、「めっちゃ痺れてん」なキャプテンチップの三半規管に更なる麻痺をかけ、二重麻痺の効果でキャプテンチップは復活を遂げたのだ。具体的に言うと、

三半規管痺れる→キャプテンレクイエムで三半規管が痺れるという感覚を痺れさせる→あれ?正常じゃん?と脳が錯覚→キャプテンチップ復活!やったね!→茶せん?0.01秒あればとれるし

こんな感じで今に至るのだ。

「かるたクイーン!!後はお前だけだ!!観念して、共に山の環境保全活動に取り組もうではないか!!」

「ふざけるな 正義になびく 訳が無い!!」

17姫が脚に力を込め、地を強く踏みつけると、地面が畳み状に抉れて波のようにキャプテンチップに襲い掛かった。

「秘の奥義 畳返しを 受けてみよ!!」

次々に展開される隆起した大地の波を交わしながら、キャプテンチップは効果の届かない中空に跳躍した。

「ミガ・コーネェ!!」

「!!!!! !!!!!!! !!!!!」

掛け声と共に腹部から光の聖剣ミガ・コーネェを生成。ミガ・コーネェを手に、17姫の背後に着地すると、振り返った17姫に対して、胸部にミガ・コーネェの先端を貫通させ、すかさずクリアリスト・ブラッシュを決めた。

「っっっっ! っっっっっ!! っっ!!!」

「ぬううん!!!」

ミガ・コーネェを握る手に力を入れるキャプテンチップ。17姫もまた、負けじと気合を入れて攻撃に耐えるが、彼女の気力もやがて尽き果てた。

「後は…任せた…よ…。ワイズ…マ…ン…。」

ミガ・コーネェを引き抜くと、両膝を折る17姫の体から悪の心たる黒い靄が溢れ出る。キャプテンチップが彼女に背を向け、決めポーズを取ると、排出された黒い靄は爆散。17姫はうつ伏せになって倒れた。キャプテンチップは、17姫と依然として固まったままのSAY SHOW A GONEをベンチに寝かせ、17姫の息の掛かっていないスタッフを呼んで二人を保護させた。

「レヴォレヴォレヴォレヴォ~~~~~♪」

途中で切り上げた歌の続きを口ずさみながら、三輪車のチェーンを外し、器用に乗ってペダルを漕ぎ、一人獣道に姿を消すキャプテンチップ。一つの事件を解決しても、彼のジャスティスハートが熱く燃え滾る限り、彼の活動は決して終わらない。

 山の生態系と観光客の笑顔を守るのも、正義の使者の大事な使命なのだ。



「姫ちゃんも離脱かぁ…。良いことではあるけど、なんだか寂しくなりましたね。」

 閉店時間間近の美味い鯉、首領を含めて二人になってしまったはた迷惑追求所の幹部の現状に、千佳は嬉しくもどこか寂しい気持ちになっていた。賑やかだった右奥の専用席は空白が増えて、声を張る人物も無く、静寂そのものだった。

「17姫のことは残念だったけど、彼女の残した置き土産を無駄にできないから、嘆いてもいられないさ。」

「置き土産?」

PCの画面を見ながら不敵に微笑むミスターワイズマンコォォォゥ。そこには、17姫とキャプテンチップの死闘の一部始終が映し出されていた。

「ヒーローショーか何かですかこれ?」

「さぁて、ね。」

動画の背面に用意されているPCのメモ帳。そのファイル名には「キャプテンチップ抹殺計画」の文字が綴られていた。

 遂に悪の中枢たる、はた迷惑追求所の幹部もあと一人。首領?そんなのは知らない。ミスターワイズマンコォォォゥが計画する恐るべき、キャプテンチップ抹殺計画とはどういうものなのか。追い込まれた悪の中枢の邪な刃が、光の戦士に今、鋭く向けられる。

「向けられていいんで、帰ってい」

向けられる。

「…そうっすね。」





☆次回予告☆

 17姫も敗れ、最後に残った幹部、ミスターワイズマンコォォォゥが企む悪しき計画は、人間ジャグジー作戦。公衆浴場の湯船で絶えず放屁をし続け、銭湯の客に不快な思いをさせつつ、その銭湯を潰してしまおうという卑劣な戦略に打って出る。ただでさえ失われつつある人々の交流の場に一層の打撃を加えようとする邪悪な意思を前に、あの男が再び立ち上がる。


次回、救え!人助け研究所 外法7 泡沫の屁 を待てっ!!

☆ーーーー☆


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