第6話
「くるぞ!」
スクルドの言葉に、姫たちに緊張が走る。
金属製の光沢を帯びた岩のようなものが、大量に転がってきた。
「ふふ。斬りがいがありそうな敵じゃないか!」
スクルドが剣を一閃すると。迫ってきた岩が真っ二つに斬られる。
二つに分かれた岩は、その瞬間爆発した。
「ぐっ!」
爆風によって飛び散った破片がスクルドの体を打ち、鎧を砕く。
「スクルド姫!」
「だ、大丈夫だ。だが、手ごわいぞ。硬い金属で対表面を覆っている上に、殺すと爆発するようだ」
口から血を吐きながら、スクルドは警告する。
「そんな。なら、どうやって戦えば……」
早くも二回目の戦闘で、ピンチに立たされる勇者たち。
手をこまねいているうちに、たちまちロックスライムの集団が押し寄せてきてしまった。
「これは……まずいんじゃないか?」
『ドラウプニルの輪』の結界の中で観戦していたアラシはつぶやく。
勇者たちは互いに分断され、一方的にロックスライムに蹂躙させていた。
「……いたっ!この!よくもこの私の高貴な体に傷を!」
スライムに体当たりされて、傷を負ったオンディーヌは激怒して槍をつこうとするが、隣にいたフレイヤに止められる。
「姫様!だめです。突き刺したら爆発します!」
「くっ……」
オンディーヌは悔しそうに槍を立てる。
ロックスライムたちは、そんな彼女たちをバカにするように笑っていた。
「ひーん。もういや!」
散々体当たりされて、ボロボロになったトーナは半泣きになっている。
彼女も「ミョルニルの鎚」を振り下ろせないでいた。
「まずいですね……にげましょうか?」
自らの輪を地面に置き、その中に逃げ込んだスキールがつぶやく。
「だめ。今「ドラウプニルの輪」の輪のゲートを開いたら。それを通ってロックスライムも帝都に来る。そうしたら。帝都自体が終わっちゃう!」
アラシの側で必死に角笛を吹いて、スライムたちを押し返していたワルキューレが叫ぶ。
それを聞いて、勇者たちは絶望的な顔になった。
「くっ……どうすれば!」
ワルキューレは必死に角笛を吹いて、ロックスライムを近寄らせないようにしていたが、所詮風である。岩や鉄といった硬い体をもつ魔物に対して相性は最悪だった。
「……ごめんなさい。あなたには関係ないのに、こんなことに巻き込んで」
ワルキューレはアラシに向かって頭を下げる。
そんな彼女を見て、アラシはなんとか救ってあげたいと思った。
(くそ……要は爆発するにしても近くでしなきゃいいんだよな。奴らを殺さずに、動きをとめらるには……人間だったら『静点』を付けばいいんだけど)
腰の辺りにある、人の動きを止めるツボを思い出して歯軋りする。
しかし、相手は動く岩である。人間のツボに相当する経点がわからなかった。
(くそっ……無力な自分がもどかしい!)
アラシが焦っている間にも、ロックスライムはどんどん襲い掛かってくる。
「きゃっ!」
ついにワルキューレの魔力が切れて、スライムたちを押し戻していた風がやんでしまった。
次の瞬間、すごい勢いでスライムが突進してきて、ワルキューレの細い体を跳ね飛ばした。
「ワルキューレさん!」
可憐な少女がスライムに蹂躙されるのを見て、ついにアラシは我慢できなくなり、安全な輪から出てワルキューレの側に駆け寄る。
巨大なロックスライムに跳ね飛ばされた彼女は、頭から血を流して倒れていた。
「くそっ!なんとか血を止めないと!」
焦るアラシだったが、そんな余裕はない。ワルキューレを跳ね飛ばしたロックスライムは、また体当たりしようとこちらに向かって猛スピードで転がってきていた。
「くそっ!いちかばちかだ。『速点』」
アラシは足の裏にあるツボに針を刺し、ワルキューレを抱きかかえる。
すると、体の奥底から力がわきあがり、スピードが上がった。
「ゴロゴロゴローーーー!」
不気味な叫び声をあげて迫ってくるスライムを、ひらりとかわす。
スライムは一気にはるか遠くまでころがっていった。
「ふう……なんとかかわせた。ワルキューレさんを、この中に入れて……」
自分の代わりに彼女を安全な輪の結界に入れる。
「……ふう。これで彼女を助けることができた。だけど……」
アラシは不安そうに周りを見渡す。
ロンギヌスの町には、何千ものロックスライムの大群が迫っていた。
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