針の勇者 革命を起こす
大沢 雅紀
第1話
深く険しい山の奥。今では誰も近づかなくなった廃墟の城の中に、6人の冒険者がやってきていた。
「ついにここまできた……ここが、幻の『機神城」だ」
そう考え深そうに言ったのは、全身青いフルプレートで包んだ若い少年。
「ね、ねえ。勢いでここまできちゃっだけど、本当に大丈夫?」
そう不安そうにしているのは、白い神官服に身を包んだ少年である。
「大丈夫さ。そもそも、機神は何百年も前に滅びた」
「そうだ。俺たちは伝説の勇者の子孫だぞ。みっともない」
そうたしなめたのは、背の高い少年と、太った少年。
「……きっと、ここに宝が残っている」
「そう。さっさといきましょう」
腕輪をした少年と、角笛を腰に挿した少年が続く。
彼ら、勇者の子孫たちは祖先が機神を倒したといわれる城に入っていった。
「ここが七機神の間なんだけど……」
先頭の赤い剣を持った少年がつぶやく。ここにくるまで、宝箱のひとつも見つからなかったので、不満そうだった。
「なんか不気味」
神官の少年が身震いする。
七機神の間には、七体の石づくりの神像が立っていた。その胸には、キラキラと輝く武器が突き刺さっている
「これはお宝なんじゃねえか?」
リーダーの少年が中央の石造の胸に刺さった槍を見てつぶやく。それは白銀色にキラキラと輝いていた。
「よし。取るぞ」
少年たちは各々好くな武器を選んで前にたつ。
「いくぞ。いっせーの!」
少年たちは剣や槍を引きぬく。まるで主人を待っていた課のように。武器はあっさりと抜けた。
「あはは。これ、売ったら相当高値でうれそうだ
そのとき、一番小柄な少年が声を上げた。
「これはどうする?」
彼がゆびさした神像の胸には、金色の小さい針が刺さっていた
「これも伝説の武器のひとつかもな。一応もらっておこう」
リーダーの少年が躊躇することなく、針を引きぬいたときー異変に気づく。
武器が引き吹かれた七つ神像は、みるみるうちに崩れていった。
「ごほっ!いったい何が起こったんだ」
機神の間に埃が舞い、それを吸い込んだ少年たちが咳き込む。
「く、苦しい!」
次の瞬間、少年たちの喉が焼けるように熱くなり、もがき苦しむ。
気がつけば、彼らは真っ黒い霧のようなものに取り囲まれていた。
「ニンゲンの分際で、我ら神を封印した勇者の子孫……憎い」
「滅びるがいい」
彼らの呪いの言葉を浴びながら、少年たちは倒れこむ。
瞬く間に、機神の間は六人の死体が転がるのだった。
「ふっ。馬鹿な勇者の子孫が『針』をぬいてくれたので、助かったな」
七人の黒い影は笑いあう。
「ああ。いかに不死の我々といえども、あの封印だけは解けなかったからな。この世の終わりまで石に封じられていたかもしれん」
一人の影は忌々しそうに言う。
「しかし、どうしてこんなに城が荒れているんだろう。俺たちが勇者に負けたからって、他のものたちは管理してくれてなかったのかな?」
影の一人が首をかしげる。数百年前、勇者の一団が機神を封印したといわれるその城は、今は伝説も忘れられてただの廃墟となっていた
「一族がどこにいるか探ってみよう」
七人の影は空に浮き上がり、意識を司法に飛ばしてみる。
「……なんだ……これは……」
世界を見下ろしてつぶやく。彼らが創ったこり世界にまぎれこんだ虫けらが、世界に満ちていた。
非力さを哀れんでこの大陸に受け入れてやったのに、自分たちに反逆して封印し、いまや大陸中に繁殖して、ほかの生物を支配していた。
「……ゆるせぬ。あのニンゲンという余所者が……この機大陸の支配者面しおって……」
自分たちを倒した人間たちが、大陸中に広がっているのを知って、影たちは怒りに顔をゆがめた。
「あれからどれだけたったのやら……一族は無事だろうか?」
彼らはさらに意識を集中して、自らがもっとも寵愛した一族の魔力を探ってみた。
「どういうことだ!?この地には感じられないぞ?」
「いや待て。はるが東の方に、わずかだが生き残っているようだ」
薄い羽が生えた男の言葉に、ほかの影たちもうなずく。
「すぐに行こう」
七人の影は、空に飛び立っていった。
そして七つの死体が転がる機神の間で、死体が持っている武器がひとりでに浮き上がる。
七つの伝説の武器は、自らを使いこなせなかった少年たちを冷たく見下ろすと、空へと飛び立っていく。
七つの武器は、機大陸最大の領土を誇るロイヤル帝国の大神殿に落ちていった。
「七機神様が……復活なされた……」
「我らの希望……」
七人の影は、元の大陸から東に数百キロ離れた小さな島で、彼らを崇める機族という生物と再会する。
それらは誰もが魔力を失い、病み疲れた顔をした。
「お前たちは、なぜこんなところにいるのだ。ここは魔力が少ない無価値な土地だぞ」
神たちに問われて、一人の年老いた機族が涙ながらに語る。
「私たちは、魔族に機大陸を追い出され、泣く泣くこの地に流れてきました。しかし……」
「ここは魔力の少ない土地。我々はそのせいで衰退し、寿命も短くなりました」
「今では、ほんの数万人ほどしか残っていません」
機族の代表者たちは、口々に自分たちを故郷から追い出した魔族をののしった。
金属でできた彼らの体からき、軋むような音が聞こえてくる。
「魔族が憎い……」
「魔族たちを滅ぼしましょう」
神たちの前に集まった機族たちは、必死の表情を浮かべてに迫る。
「お願いします。七機神さま」
さまざまな姿をした機族たちが、彼らの王に訴える。
本来は理性溢れる穏やかな性格をしていた彼らも、この数百年にも及ぶ苦難の歴史により、すっかり「魔族」という生き物に憎しみを抱いていた。
「魔族を滅ぼし、機大陸を奪い返しましょう!」
機族の長が訴えると、それに賛同する声が上がった。
「そうだ。もともと世界は我々のものだ!」
「あやつら魔族など、西の地から迷い込んだ異分子にすぎん」
「そんなやつらが、我ら機族を辱め……」
そのような声を聞き、七つの玉座に座った七機神はうなずく。
「わかった。魔族を滅ぼそう」
それを聞いた機族たちから、ワーーーッと歓声が響く。
「では、母になる者たちをこれに」
機族の長が命じると、覚悟を決めた顔をした七人の少女が前に出てくる。
七つの影は、少女たちの腹に吸い込まれていった。
「これで、新たな機王様たちが生まれる。一年後には……魔族の帝国に侵攻できる」
機族の長の言葉に、集まった者たちは頷く。
魔界グランシーヌの戦乱の時代の幕開けであった。
一方、世界を支配するロイヤル帝国ではー
「これはどういうことだ……」
ロイヤル帝国の女帝は、大神殿に落ちてきた七つの武器を見て驚く。
それらは、機神を倒したといわれる伝説の武器だったからである。
伝説の武器が大神殿に戻ってきたので、あわてて兵を派遣した。一年後に戻ってきた兵士たちは、
機神たちを封じ込めた場所に6つの死体が転がっていたと報告したのだった。
「彼らをすぐによべ!」
女帝の命令により、公国家が呼び出される。調査の結果、彼らの息子が勝手に持ち出し、冒険の旅に使っていたことが判明した。
「馬鹿どもめ……伝説の武器をなんと心得る」
怒りの声を上げる好転の前で5つの公国家の女王たちは平伏する。
しかし、同時に反抗も始めた。
「あなたの息子である皇子が。我々の息子を唆し、冒険の旅にとさそったのでは」
「機神城は直轄地にあります。つまり、管理責任は皇家にあるはず。どうして我々の子供が危険な場所に入れたのでしょうか?」
そう責められて、女帝は言葉につまる。たしかに平和な時代に慣れて、経費がかかる機神城の管理を怠っていたのは皇家の失態だった。
数百年も何事も起きなかったので、ただの廃墟だと思って警備兵も引き上げていたのである。
「我々はすでに、大切な息子を亡くしております。罰は受けたと思います」
「それでも責められるとなれば、勇者の子孫として誇りを守る行動にでるしかありませんな」
公国家たちは女帝を脅しにかかる。ロイヤル帝国において勇者の子孫である公国家は国民に尊敬されており、彼らが一致団結して反抗したら皇家すら倒すことも可能だった。
険悪な雰囲気になる玉座の間に、明るい声が響き渡る。
「まあまあ。お母様もおば様方も、喧嘩はそれくらいになさってください。今は争っている場合ではありませんわ。復活した機神たちを倒さなければ」
皇帝の娘であるオンディーヌ姫の発言を聞いて、双方とも矛を収める。確かに今は人間同士争っている場合ではなかった。
「して、どうする?卿らは勇者の血を引く一族だ。機神を退治をしてもらえるか?」
女帝が皮肉そうに言うと、五つの公国の当主たちも目を泳がせる。長年安楽な生活をしてきたせいで、彼らは戦う勇気も力もなかった。
「……どうしたのだ。貴様たちの子弟が封印を解いたのだ。責任はとってもらわぬとな。それに、伝説の武器が使えるのは、勇者の子孫だけだ」
重ねて皇帝から言われて、彼らもしぶしぶ受け入れる。
「やむを得ませぬ。一族の者たちに機神退治を任せましょう……」
彼らはしぶしぶ、剣や槍などの勇武を受け取るのだった。
「お母様。『針』が残っておりますわよ」
オンディーヌ姫に指摘されて、皇帝は初めて気がつく。伝説の武器たちが納められていた祭壇の上には、小さな針がぽつんと残っていた。
「えっと……この針が使える家はどこの家だ?」
皇帝の質問に、公国の女王たちは首を振る。
「たしか、その『針』の使い手は、魔力をもたない人間だったため、勇者たちの下僕だったはずですわ。七機神が封印された後は、御役御免となっていずこかに消えたようです」
オンディーヌ姫のそばに控えた、青髪ツインテールの近侍の少女が答えた。
「そうか。まあよい。どうせ人間の下僕など、いてもいなくてもどうでもよいであろう」
女帝はそう割り切るが、女王の中の一人が進み出る。
「念のため、わが娘の『輪』を使って針の使い手を呼び寄せましょう」
「好きにするがよい」
女帝は手を振って、下僕召喚に同意するのだった。
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