魔法使いが最弱ってマジですか?

朝雨

第1話

プロローグ



「キュルルルルルルッ!」

広大に広がる大草原。その中央に位置するのは明らかに和やかな雰囲気には似つかわしくない存在がいた。大地を揺るがす咆哮。その存在は誰が見ても異形なものだった。

みんなは『リリス』という存在を知っているだろうか?

多くのRPGにおいて精神攻撃や状態異常を主とした攻撃を行う、なんといっても《ボスキャラ》である。

そんな存在がなぜ俺の前にいるか…答えは単純。



ここが異世界だからだ。


「なんでこうなった……」

俺は目の前の異形な存在、リリスを億劫そうに見上げて呟いた。


事は一時間前。

俺はいつものように自分の家でそれはとても素晴らしいニート生活を送っていた。

これまでは親からの仕送りでなんとか食っていた…のだが。


「まさか仕送りが止まるはねぇ……」

仕送りがストップした。

最後の仕送りには文書がついており、そこには

「拝啓 お元気ですか?一応、母です。そろそろ働かないとダメ人間になっちゃうよん☆でね、考えたんだけど仕送り止めることにしちゃった(・ω<) テヘペロ 後は頑張ってね! 多分、母より」




・・・


「っおい!ツッコミどころ多すぎだろ!……ってそれどころじゃねぇ…」

危機感を感じた俺はゴミだらけの自分の部屋を見渡して考え…そこであるものが目に入った。

「おっ、これは懐かしい…」

手に取った長方形のプラスチックケースのラベルには『world online』と書かれていた。

『world online』通称wo。このゲームは一昔前に一世を風靡したVRMMORPGシステムを搭載しており、このゲームは引きこもり対策として発売されたもので、なんとモンスターと戦ったり、クエストをこなしたりすると報酬が発生する。それもリアルの報酬…つまり現金だ。

しかしそれだと赤字になるのではと考える人もいるだろうが、スポンサーやら金持ちの投資やらでどうにかなっているらしい。

だが、このゲームは素晴らしいところもあれば残念なところもある。

モンスターに襲われれば痛みは発生するし、走れば疲れる。重さを感じることもあれば暑さ、寒さも感じる。つまり、モンスターに潰されようものなら…という問題があり、今では完全にクソゲー認定されている。だが、それでもモンスターを討伐できれば大金が手に入る。つまりさくっと倒して大金手に入れて辞めれば………

俺はしばらく考えた。考えた結果。


「よしっ、やるか」


金に目がくらんだ。


俺は長方形のプラスチックケースからCDを取り出し、wo専用の機械に取り込む。そして接続されたヘッドホンを付けベッドに横になる。しばらくして機械から読み込む音が聞こえると、俺の意識は途切れた。


《ようこそ、woの世界へ》

気がつくと俺は壁もなく、床も天井もない謎の空間に来ていた。ここは『作成の間』

名前の通り、キャラを作るための空間だ。今俺の目の前には、ゲームの仕様、進め方、操作方法などを教えてくれるサポートAIの少女がいる。なぜ少女かというと……製作者の趣味らしい。

《では、早速、あなたの名前を教えてください》


そうか…キャラ作成の初めは名前決めだったな…んー、特にしたい名前が無いから本名でいいかな…


「田中で」


…おい。


今笑っただろ。


こんな名字で悪かったな。


《その名前は既に使用されています》


「っおいいいいいいっ!!!」

くっそ…恥かいた上に使われているとは…いやそうだよね。だってかなり前のゲームだし、使われてるよね。別に気にしてないし!

どうしよう…名前決めが一番嫌いなんだよなぁ…

「もう…ランダムで…」


《ジョン…でよろしいですか?》


「なんでっ!?いやジョンって名前使用されてないの!?そこが驚きなんだけど!?嫌なんだけど!?」

っと…俺としたことがAI相手に取り乱してしまった。…ふぅ。


「耀太(ようた)…でどう?」

俺の名前だが…


《耀太……認証されました》


あっ…使われてないのね……

っと次は…


《容姿はデフォルトにしますか?カスタムにしますか?》


名前決めの後はそうだよね、うーんどうしようかな…めんどくさいし…

「デフォルトで」


《認証されました。では、最後にご希望の職業を選択してください》


やっときたーーー!!これだよこれ!RPGの醍醐味といえばやっぱり職業だよね!っと…そういえば前にこのゲームやった時は戦士職だったし…今回は…


「魔法使いで!!」


《認証されました。では、楽しんでください!》


サポートAIが言い終わるとともに俺の足元に魔法陣が浮かび上がり白い光が俺を包む。

よし…金稼ぐぞ!

ん?あれ?なんかこの魔法陣、前見た時と違うな…アップデート来たのかな?…まぁいいや。




「…で。ここはどこ…?」

辺り一面は大草原。

ワァーキレイダナー( ゜д゜)


っじゃねぇよ!!!

どうしよう…この前と仕様が違いすぎてて全然わかんない…あっそういえば

「サポートAIさん、あのー、ここどこですか?」


・・・


「あのー………?」


・・・


えっ。

いやいやいや説明なし!?俺、チュートリアル無しで大草原に投げ出されたの!?まじかよ…


「と…とにかく歩いてみるか…」

仕方なく俺は一面、とても綺麗な緑色に包まれた草原を歩いていく。が、唐突に辺りが暗くなった。


ウン、嫌ナ予感が…



的中した。

上空を飛んでいるのは体長が30mはありそうな巨大な……鳥?悪魔?みたいなやつ。

これ…見たことあるわ…

パ○ドラで見たことあるわ…なんだっけ…

あっ、『リリス』だわ…

なんかすごい声で鳴き叫んでるけど、俺の耳には届かない。ふっ…なぜかって?…目の前にすごい数の猪がこっちに突進してくるの。

でね、後ろに逃げようとしたらそっちからダチョウっぽいのが走ってきてたのね。


…ナニコノ無理ゲー ( ´ཫ`)

こんなに運がない人っているのかなぁ…初期段階だからレベル1だし魔法使いとか職業は関係ないし。あー……死んだなこれ…


と、その時突如として現れた魔法が猪やダチョウらを蹴散らす。







ことはなく、俺は猪にはね飛ばされて意識が途切れた。

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