第65話「対峙する六人、準備する二人、観察する一人。」
「うん、そうだね〜じゃあアリアスちゃんとルーイちゃんを連れて下がっててね〜」
「は?なんでそうなる?」
「そうです!私だって戦えます!」
「いくら兄ちゃんが頭が良くっても、アリアスちゃんの魔素量が多かったとしても、エイプって魔法が効きにくいんでしょ?剣を持った兄ちゃんならまだしも、不利なのに変わりはないよねー。」
「コウさん・・・」
キミヒサ、アスナ、ナタリーもコウの言葉に何も言えずにいた。
現に魔法が得意なモリアナ兵士達の魔法も、あの巨大なエイプの前にはダメージを与えることが出来なかったからだ。
いくらアキラがナイフを持っていたとしても、短いリーチのそれでは太い体毛に阻まれてエイプの皮膚を傷つけることくらいしか出来ないであろう。
それでもアキラがどうにか戦おうとなると、異能の無いアキラは自ずと手段を魔法に頼らざるを得なくなる。
ましてや武器を持たないアリアスには攻撃手段は魔法しかない。
「だから兄ちゃん。後ろで見てて。そして叫んでよ。
「ふっ・・・・そういうことか・・・・ああ、見ていてやる。だが皆が危なくなったら俺がこの戦いを、この場を支配するぞ。」
「流石兄ちゃん!そうならない様にするけど、そん時は宜しくー!」
コウの言葉にアキラがニヤリと微笑むとコウも同じように不敵な笑みを浮かべて目線をあわせると、コウはエイプの方へと振り返り歩いてゆく。
「アリアス、ルーイ。行くぞ。」
「は、はい!」
「・・・・おう。」
アキラもそれに合わせたかのように馬車の方へと向かい始めた。
歩いてゆくアキラから離れまいと、ルーイも後をついていく。
アキラの側まで追いついたルーイは不安げにアキラを見上げると小声で話しかけた。
「旦那、いいのか?旦那の魔法は魔法であって魔法でないって言っていただろ?戦力になるかもしれねぇじゃん?」
「いいんだ。あの爆発魔法はコントロールしにくいんだ。多人数で戦うとなると下手をすれば味方に被害が出るかもしれない。それに、“新作”もエイプで試した訳じゃない。コウは状況が悪くなっても俺がなんとかしてくれると踏んで頼ってくれたんだ。俺なら観察すれば一気に叩く方法も分かると考えたんだろう・・・・」
ナタリー、テオもコウに合わせてエイプを正面に捉え、各々の得物を構えながらアキラ達と距離を取り始めていた。
「全員後方待機。怪我した人を回復させてなさい。第七班は伝令に出て現状の報告を。」
「「「了解!」」」
アスナは近くにいた班に指示を出し、兵士達もアキラ達と同様に一斉に後方へと下がらせている。
キミヒサはそれを見て納得したのか、踵を返し、コウの側まで歩みを進めていた。
「コウ、あの巨大なエイプの後方の森にもまだエイプが控えている。俺達だけでいけると思うか?」
キミヒサはコウの横を歩きながら問いかけた。
「分かってる。気配をビンビン感じてたからねー。その為の兄ちゃんだよー」
「確かにアキラ君なら何とかしてくれそうね!」
アスナもコウを挟むように横に並んで歩いてゆく。
「その・・・・・本当にアキラは大丈夫なのか?」
キミヒサの問も最もである。
剣も持っていなければ異能も持っていないのだ。
キミヒサはアキラに対して、良くこの世界で生きてこられたものだと感じていたのだ。
もちろんアキラのマッドサイエンティスト気味の持ち味は知っている。
だが、それだけでアキラが“保険”として機能するかは別の話だ。
「大丈夫!兄ちゃんなら何とかしてくれるよー!」
「なんだそのブラコンは・・・・まぁ今に始まったことじゃないか・・・それはそうと、あの森に潜む奴が早い段階で出てこられても厄介だ。いくら大きくないとは言ってもエイプだからな・・・・今の兵士達だけでも荷が重い。出来るならあの
「割り振りはー?俺は一人でいいよー」
「ああ、端からそのつもりだ。俺とアスナ、ご老・・・・テオさんとナタリーさんで1体ずつだ。行けるか?」
キミヒサの言葉に皆が目を合わせて無言で頷く。
すると突如コウが何かを思い出したのか声を上げた。
「あ!そうだ!言い忘れた!」
コウは振り返ると大声で叫んだ。
「兄ちゃん!ルーイちゃんもだけど、アリアスちゃんをしっかり守るんだよー!」
コウの言葉に夕焼けの書庫を思い出したアキラとアリアスは、顔を茹でだこのように赤く染め上げた。
「あ、ああ、絶対に守る。約束したからな。」
「アキラさん・・・・・・」
「っえ!?嘘!?どういうこと!?まさかアキラ君・・・・・」
アキラとアリアスが揃って赤面する姿にアスナが大きな目を更に開き、本人も気づかないような大声で叫んでしまっていた。
「ブゴァァァァァァァア!!!」
コウの大声が切っ掛けになったのか、はたまたアスナがアキラとアリアスの姿を見て狼狽したせいなのか。先程コウが転がした巨大なエイプを先頭に三階建の家ほどの大きさのある3体が一斉にコウ達へと走り出した。
「始まったか。」
アキラもアリアスとルーイを後に下がらせて戦闘に集中し始めた。
(テオから事前にエイプの生態は聞いている。だがこの状況、デジャブとしか思えない。何かが起こる可能性もある。エイプ達の一挙手一投足を見逃すわけにはいかない。)
突如現れた魔物の群れ。巨大化する個体。
アキラにはオークキングの一件と関わりが無いようには思えなかった。
「アリアス。もしものためにアリアスの使える魔法の中でここから最速で敵に当てれる魔法の準備をしておいてくれ。」
「回復魔法でなくていいのですか?」
「その怪我を未然に防ぐためだよ。」
「は、はい!分かりました!」
「ルーイ、紙とペン“例のインク”の用意を。いつでも刻める様に準備しておいてくれ。」
「ニャ!?ここでやるのか!?」
「いいのが浮かんだらな。」
「さて、俺も準備をしておこうか・・・・・」
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ブゴァァァァァァァア!!!」
エイプの爆発音のような咆哮がコウたちの鼓膜を震わせる。
「来るぞ!コウ、先頭の奴を頼む!俺とアスナは左、テオさんとナタリーさんは右を!各自、注意を引きつつ散開だ!」
事前の割り振り通りに別れると皆が一斉に走り出した。
「テオ殿!魔法を!」
「うむ。」
ナタリーの言葉に合わせてテオが無詠唱で
「ヴゴァァァァ!!」
「それじゃあ俺達も!」
キミヒサは走りながらそう言って、片手を突き出すと手の先から
もちろん無詠唱でだ。
放たれた
その時には既に先頭の1体がコウを射程に収め、拳を振り上げていた。
穿たれた際に飛び散った岩も含め、コウはそれをバックステップで難なく躱した。
「ヴゴァァァァ!!」
避けられたことが悔しいのか、エイプは一鳴きするとコウと睨み合う。
「さぁー!続きをしようかお猿ちゃん!」
かくしてアキラ達の《ブラド荒野》の戦いの火蓋は切って落とされた。
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