第55話「年齢と態度は比例しない方がいい」

「旦那ー!まだやるのかー?」


「いや、ここまでだ。・・・・・・・打てて20発ってとこか。」


ミストラル王国ワンド本部。エスティナの屋敷の庭にある訓練場で俺とルーイは今後の俺の武器となる魔道具の開発のため小杖ワンドでの消費魔力実験を行っていた。


加護を解除してもらって2日目。

自らの魔素総量の変化に嘆いたものの、そんな事は考えていられず昨日は在庫の切れたナトリウムの生成と本を読み漁っていた。


ルーイ目的で来た来客コウに邪魔をされつつも、魔法陣を通した魔法であれば消費魔力が少ないと知り昨日から試していたのだ。


「一発打っても2割程度の削減が限界か・・・・ルーイ、次だ。」


「あいよー!」


小杖ワンド

ここの組織の名前でもある武器だが、実状は武器のそれではない。


調べたところ魔道具の一種であり、触媒として術者の魔法発動の効率化を図り、消費魔力を下げる補助道具が起源である。

そこから属性に特化させたものや特定の魔法に特化させたものが派生したことで小杖ワンドロッドが武器として流通しているのだ。

そのため流通しているものは触媒としての効果はあるのだが固定属性のみに効果があるものや、特定の魔法のみであったりとピーキーなものばかり。


ルーイの話では魔法陣を刻める部分も限られるため複雑な魔法陣が刻み難く、そこまでの性能は望めないらしい。


それでもと淡い期待を持って、俺は小手調べにその辺の奴の小杖ワンドを借りて試し撃ちを繰り返していた。望む成果が上げれていないのが辛い所である。


まず俺の一つ目の課題である「魔素総量問題」。


これをクリアするには、今使える魔法の効率化を図らなければならない。

加護を解いてもらったことにより魔素総量に不安が残る。毎日使えるおやつ代が500円から300円へと減ったようなものだ。

生活水準は下げにくい。

加護アリアスの偉大さが身に沁みるな・・・・


「小僧、何をやっておる。」


「にゃ!」


振り返ると、いつの間にかテオが後ろに立っていた。

気配もなく急に現れたり、呼んでないのに来たり、この爺さん見た目も行動も不気味だ。



ん?待てよ?テオなら齢も重ねている上、名を馳せた魔道士だったはずだ。相談するにはうってつけではないか?




「消費魔力を下げることのできる触媒を探している所だ。何か知らないか?」


「ふむ着眼点はいいの。じゃが・・・・・教えてやっても構わん。その代わり小僧の爆発魔法の方法を教える事が条件じゃ」


昨日生成することが出来たナトリウムも高が知れている。

2発分にも満たない。

はぁ・・・・折角一日かけて生成したが、こんな所で使うとは思わなかった。

だが齢を重ねて尚、探求を止めない心意気は買ってやろう。


俺はテオに向け頷くと一発分はちゃっかり残し、訓練場に設置されている木人に向って、残りのナトリウム弾を放った。一発分にも満たないため、爆発は小規模で木人の頭を飛ばす程度で終わった。


「さあ、これでいいか?」


「良くないに決まっておるじゃろ。儂はやり方を教えろと言ったのじゃ。やる所を見せろとは言っておらん!」


口をへの字にして睨みつけてくる。態度がデカい。

こういった輩は大概、弟子とかに「見て覚えろ」とか言うんだろうな。


俺は苛立ち紛れに、油を染み込ませた紙で包んだ残りのナトリウムを半分に千切り、テオに放り投げてやった。


「紙を剥がして、それを水で包みロックバリル(石弾)とウォルターバリル(水弾)の要領で放てば爆発する。爆発までの時間は・・・・・説明が面倒だ。水に包んで6ほど数えれば爆発する。それを計算して放て。」


テオはナトリウムを片手で掴むとまじまじとそれに目をやった。


「土・風、水・風か。フォースキャストで出来るとは疑わしいの。それに何故油を染み込ませた紙に包んでおる。小僧これはなんじゃ。」


「説明しても理解できるとは思えん。いいからやってみろ。」


化学反応を一から説明しても基礎知識が無ければ受け入れることさえ出来ないだろう。

ヘルマンで経験済みだ。

面倒だから説明は省きたい。


「ふん!生意気じゃの。それで、スペルはなんじゃ」


「スペル?ずっと無詠唱だからわからん。なんとかしろ。」


「“ずっと無詠唱”?謀るな!ふん、まぁよい。それくらいできるでの。」


テオは言うなり構えに入った。


「大地の波動は・・・剛胆なる堅き・・・・かの礫を、親愛たる生命の根幹と起源の風と共に打ち出せ。いざ理の外にて現わさん。」


一説一説が唱えられる度にナトリウムが中に浮き、水球が生成され、水がナトリウムを包み込み、そして・・・・・・・






「飛ばんの。」







「テオ!それを離して走れ!ルーイも伏せろ!」


俺はその場で固まっていたテオの手を取ると走りだした、そして適当な所で伏せる。

途端、落ちたナトリウムが反応を起こし、爆発音と共に地面を軽くえぐり、石や土がパラパラと降りかかる。





「小僧!やはり謀ったの!」


テオは粉塵が落ちきるなり立ち上がると怒鳴りちらしてきた。

はぁ・・・・・面倒くさいな。


「いや、出来なかったのはお前だろ。人のせいにするな。」


「土魔法で飛ばせんではないか!最初から教えるつもりも無かったのじゃろう!」


土魔法で飛ばせない・・・・・

風魔法は空気抵抗を最小限にし、押し出す加速器の役割だから・・・・・

そうか、そういうことか!!


「テオ、土魔法で地面の鉄だけを抜けるか?」


「そんなもん出来る訳がなかろう!年寄りを馬鹿にするのも大概にせい!」


俺はテオの怒号を無視し、目の前で地面から鉄だけをより分けて手のひらに固めてみせた。

抽出は慣れたものだ。魔力消費も少なくて済む。

それを怒鳴り散らすテオへと放り投げる。


「できる。恐らく、これが出来なければ無理だろう。」


「そんな訳な・・・・・なっ!!なんじゃと!!」


テオは目を見開いて口をパクつかせてしまった。掌の上の生成されたばかりのキラキラと輝く鉄の粒を見て目を見開き、重ねた歳と共に刻まれたシワがより深くなっている。


「俺が渡した爆発物はその鉄のように一つの成分を固めたものだ。テオが使えなかったのは恐らく、“土”又は“金属”という大きな概念でしかなかった為、特定の成分だけを動かすことができなかったと推測できる。」


「バカを言え!ならば小僧はその辺の土からいくらでも剣や槍を作れるではないか!」


「いや、それは出来な・・・・い事もないか。含有量にもよるな・・・・実戦には不向きか・・・・待てよ・・・・そうか!!」


「ルーイ!紙とペン!・・・・あ、両方持ってたな。ルーイすまない!大丈夫だ!」


考えが纏まった!

ウエストバッグからメモ帳とペンを出すと、そのまま地面に座り書き殴る。


「小僧?」


「旦那?」


よし!これなら行けるかもしれない!!


「ルーイ!戻るぞ!仕様の検討だ!」


「おっ!待ってました!!超楽しみー!」


俺はペンとメモ帳をウエストバッグに無造作に詰め込むと、借りていた小杖ワンドを抱えて研究室俺達の部屋へと走り出した。







「まだ終わっとらんぞ小僧。」

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