第46話「馴れてしまうと周りの目を気にしなくなるもんだ」

「終わったか・・・・」


辺りを見渡せば朝焼けに照らされた死屍累々が、改めて惨状を物語っていた。

クアグマイア(泥沼)に残っていた数体もコウが一気に片付けて、俺とコウはオークパーティーの中で一番デカかった豚巨人の前で座り込んでいた。


「アキラさん!コウさん!本当にすいませんでした!」


「本当に済まない・・・・・全く動けないなんて・・・・」


声がしたので振り向くとアリアスとナタリーが直角に頭を下げて頭を垂れている。


目的地付近で吐瀉った音が聞こえた時点でアリアスとナタリーを戦力にいれない事をコウと相談しておいて良かった。

最初からフルパワーでなければ、あのヒュージオークとか言う奴を倒す事すら厳しかった。


まぁ、主に“俺が”という限定ではあるが・・・・


コウがいなければ勝てなかったのは明白だ。

やはりこいつは強い。

あの紅い湯気のようなもの、仮に《クリムゾンオーラ》とでも呼ぼうか。

あれが出始めてからコウの身体能力が異常だ。

親父から叩き込まれた元々の剣技と相まって物理的な限界を突破している。

やはり『異界の戦士』というやつか・・・・


ここでも“差”をつけてくるな・・・・・


「大丈夫!大丈夫!二人共頭上げてー!」


コウが声をかけると二人共頭を上げたのだが、アリアスは今にも泣きそうだ。


「酔っていては仕方ない。終わりよければと言うやつだ。気にするな。」


慰めたつもりだったがアリアスはまだ泣きそうだ。

ナタリーは再度頭を下げると事後処理の為の指示に行くと言い、《ワンド》の部下たちのもとへ駆けっていった。


それにしても、事前にアリアスから聞いていた話とは違うな。


今回のオークパーティーはその数が問題であって、通常のオークならば俺のロックバリル(石弾)で十分に倒せると聞いていたんだが、一発撃ち込んだ際のダメージの無さにビビった。


俺の魔法が弱いだけではと思ったが《ワンド》の連中の放つ魔法にも、仕留めるほどの威力が無かったのだ。

もしや魔法が効きにくいのではと、過程では魔法を使用するが、化学反応でのダメージとなる金属ナトリウム爆発を試してみたのだ。


案の定倒せたものの、何体か巻き込むつもりで放った虎の子のナトリウム弾(仮)で1体づつしか倒れないなんて・・・・


お陰でストックも空だ。また作り置きしておかないとな。

海もあるらしいし、時間は掛かりそうだがルビジウムでも作っておくかな。

となると揮発性の低い油と密閉容器が必須だな。


まぁそれは後でいいとして、この魔物のサンプルを取っておこう。《魔装の肉》の研究に何か役立つかもしれん。

魔法が効きにくい所でも研究の価値はある。


俺は立ち上がるとナイフを取り出し、豚巨人を革や肉、モヒカンのようになっている毛など各部位を少量づつ切り出し始めた。


「兄ちゃん、それは気持ち悪い。」


確かに死体から肉を削ぐなんて、傍から見れば奇人極まりない。

現に今は腹を開いている最中である。


ドクドクと流れる紫の体液が咽返るような臭いを放っていた。

大学では日頃からマウスの解剖をやっていたため全く気にしていなかったが・・・・


「ああ、《魔装の肉》の研究用にな。気持ち悪いなら見ないほうがいいぞ。」


「・・・・・私も手伝います!!」


い、いや、それはいらない。

紫の体液まみれになっているアリアスを想像するとなんか嫌だ。


「やめとけ。それよりアリアスに聞きたいんだが、アリアスが聞いていた限りでは平原にいるのはオークとゴブリンだったよな?」


「・・・・はい。」


「これってオークなのか?聞いていたのはもっと弱そうな奴だったはずだ。」


俺は一気に襲ってきた際に、ゴブリンらしき奴の剣を躱した時に切られた袖を指差すと、アリアスを見返した。


「・・・すいません・・・この大きいのはオークキングです・・・・他の魔物もオークやゴブリンではなく、ヒュージオークとゴブリンファイターです・・・・・・」


《時の魔女》からの伝言と違う。

アリアスもそれが分かっているのだろう。また腰を直角に曲げてしまった。


「そうか・・・・ならどういう事なのか知りたい。《ワンド》で嘘をつかなそうで説明が上手い奴を連れてきてはくれないか?」


「はい、わかりました・・・・」


アリアスは直ぐに駆け出し《ワンド》の男達のもとへ向かっていった。


「兄ちゃんの読み通り、最初からトップギアで良かったねー」


「ああ、舐めていたら怪我人では済まなかっただろうな。」


今回の件、どうもきな臭い。


内容次第では《時の魔女》は信用出来なくなる。

事態の把握はしておかなければ今後の行動にも支障をきたすだろう。

とにかく話を聞かねばな・・・・


しばらくするとアリアスとナタリーに連れられて3人の男がこちらに走ってきた。


一人で良かったのだが・・・・


「お待たせしました!」


来たのは後ろで戦っていた山賊みたいな奴と軽装の剣士、もう一人は防具すら纏っていない中学生くらいの少年だ。


統一感ゼロだな。


「改めて名乗らせてもらう。《ワンド》三番隊第四席マブラウス・ハルズマンだ。二つ名は『魔槌』だ!今回の件ナタリー嬢に話は聞いた。ありがとう!助かった!」


山賊の男はコウと俺に両手で握手すると実に爽やかな笑顔を向けてきた。

何故か公久を思い出す。熱いな・・・・・


「同じく《ワンド》三番隊、フィル・ロン・クラッド・・・・」


こいつは俺に目線を合わせることすらしない。

コウをずっと睨み続けている。

何か嫌な事でもしたのだろうか・・・・


「フィルは私の幼馴染だ。二つ名は『陽炎』。フィルの魔法剣の名から来ている。無愛想だが腕は立つ。」


すかさずナタリーがフォローを入れると、コウを睨むのを止めて、そっぽを向いた。


なんなんだこいつは?

コウは至って普通である。気にしていないようだ。

だが魔法剣・・・・・もしやそのせいでダメージを与えにくかったのではないのだろうか?


「あの!初めまして!!!僕は《ワンド》三番隊末席のリオです!戦い拝見しました!本当に凄いですね!僕なんてスケルトンを倒すのがやっとで、ヒュージオーク、いやオークキングを倒すなんて夢のまた夢です!流石『異界の戦士』様です!」


鎧を纏っていない少年が憧れの眼差しをコウに向けている。

スケルトンという言葉が気になったが、それよりも彼の戦闘とは無関係な装備が気になった。


「この子も戦うのか?」


ナタリーとアリアスが俺の視線に気付くと補足してくれた。


「リオは魔眼保持者だ。戦闘力は一般兵くらいだな。だが『魔眼』があっての戦闘力だ。彼は貧民街にいたため家名も無い。魔力まで見える子供の噂が広がっていてな。スカウトしたわけだ。」


「リオ君は魔力量や魔力の流れだけでなくアイシー(望遠)の魔法も使えるんです!隊では魔眼での斥候の役目を担っています!今回の件も離れた所から見ていたこともあり、事の全体を把握しているのではと呼びました!」


ほほう。

素晴らしい!素晴らしいじゃないか!

魔力が見えるなんて、この魔法だらけの世界では特筆すべき能力だ。

試しに俺の魔力量を聞いてみるか。


「アキラだ。『異界の戦士』ではないがよろしく。不躾で悪いのだが俺の魔力量を・・・・・」


「待て坊主。儂を忘れるでない。」


「「「うわっ!!!」」」


いつの間にか俺とコウの背後にヨボヨボの爺さんが立っていた。

アリアスも気付いてなかったようだ。

視界にも入ってなければ気配すらなかった。


「兄ちゃん・・・あれガンジー?」

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