双顔の魔学師〜勇者討伐に召喚されたら弟がチートでした〜
紅太朗
プロローグ
第1話「認めたくないものだな、男は顔じゃないなんて」
「あ、いたいた!ね、ここにいるって言ったでしょ」
「この人が
早朝のキャンパス。
俺は校舎裏の小さな芝生スペースの隅で魔法瓶にから注いだ家から淹れてきたコーヒーを啜りながら今日の夕方に手伝う事になっている研究室の資料を読んでいた。
そんな所に現れた女子2人。
「・・・・はぁ・・・ここも使えなくなったか・・・・」
ここは運動系サークルからも離れており騒音も少く表の芝生の広場と違って人も来ない。
去年の秋にようやく見つけた俺のベストプレイスだ。
だがこの聖地も今日で終わりか・・・・
「うわ・・・・明らかに嫌な顔してますよ先輩・・・似てるのに全然違う・・・・」
「・・・・あ、そこから風か入ってくるので右に退けてください。いえ、もう5センチ右です。」
「うわ・・・・先輩、同じ顔でも性格が大切なのがわかりました・・・・」
・・・ック!何処の誰だか知らんが失礼な奴だ。
佐伯先輩の
「いつものことよ!この子はうちの研究室の新入りの子よ。宜しくね!でさ、最上《もがみ》君、来週の金曜だけど、私の代わりにうちの研究室に来れる?」
「えっと・・・佐伯先輩?の研究室って有機化合物でしたっけ?大丈夫ですよ。時間は昼からで良いですか?」
覚えはある。覚えはあるんだが、雑誌に載ってるような服装をそのままコピーしたメイクと服装は俺の記憶に残りにくい。
佐伯先輩は研究室に属しながらも、言わいる『リア充』なタイプだ。
去年の夏に有機化合物の研究室の人手が足りないからと慕っている教授に促されて手伝ったのがきっかけでお願いされるようになった。
「ありがとう!昼からで問題ないわ。」
「それで、今回は何処の大学ですか?」
「上知大学のイケメン!お父様が官僚なの!」
「やっぱり・・・」
決して悪い人ではないのだか合コンの度に手伝いを頼まれるのは何か釈然としないものがある。
「あ、え、いや、最上君が来てくれれば構成式を組むのに助かるから皆喜んでるのよ!ねえ、やっぱりうちの研究室に入らない?」
「えー先輩。ホントに使える奴なんですか?」
イラッ!!
「ほんと構成式たけじゃなくて工学系にも詳しい凄い子よ!貴女よりも絶対にね!」
「っていうか使える奴でもこの性格は空気悪くなりません?」
イラッイラッ!
「死んでも入りませんよ。楽がしたいだけでしょ。」
「っち!バレたか!」
「では憩いの一時を邪魔されたので俺は行きますね。」
「うわー・・・一言多い・・・先輩、アイツ絶対友達いないですよねー」
「こら!最上君にそんな事言っちゃうと・・・・」
時すでに遅し。
既に仕返し対象に決定している。
「あ、言い忘れてましたが、そこナメクジ降ってきますから。」
・・・・・・ポトリ。
「ぎゃーーーーーーーーー!!!!!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「おい最上」
「なんだ?」
健康的に焼けた肌に引き締まった腕。顔の作りは濃いが白い歯が爽やかな短髪の男が腕組みをしながら問いかけてきた。
「そろそろ部とかサークルに入ったらどうなんだ?そのまま何でも屋みたいに色んな研究室の手伝いだけしてても何も産まんぞ?」
ここはガラス張りの200人くらい入る大学の学食。窓からは青空と芝、その奥に校舎が見える。今の利用者は大体15人程度か。
いつもの隅っこの机で昼食を取っていたところに、急に食欲の唆る物体を目の前に置いて爽やか短髪男が座っている。
「暑苦しい
食堂の端っこで一人で優雅にマイオリジナルブレンドのコーヒーと自作のお菓子を食べながら研究資料に目を通していたのに、体育会系の乱入者により、このひと時を掻き乱され、少しきつい態度を取ってしまった。
分かっている。だが決して寂しくはない。決して!
「いや、お前のこの先が急に不安になってなハハハ!」
「顔が濃い上に嘘がガムのようにへばりついてるぞ」
「うおぃ!一言余計だ!」
公久は学食一番人気のカレーを一口食べた後、深いため息をつくと窓の先の武道館に目を向けていた。
「最上、あれ見てみろよ。お前は羨ましくはないのか?」
目線の先にあった武道館は俺もよく知っている。剣道部の練習場。公久も剣道部だ。男臭い武道館に似つかわしくない後景がそこにはあった。
入り口に女子たちがへばりついている。ざっと20人前後か?
そして汗を白いタオルで拭きながらで出て来た俺と同じ顔。
なんだ、アイツか。
「
「そうだよ。お前の弟のファンクラブだよ。知ってるだろ?でも前より増えてる。」
「高校時代からそうじゃないか、何も羨ましくはない。」
「ワァイ!?なぜ!!?」
公久は無駄に眼力の強い瞳をひん剥きながら前のめりに言ってきた。
いや、ちょい待て待て。濃い濃い・・・現代神話である修造を彷彿させる。
海外に出たら日本の天気が悪くなると言われる人。アツすぎるな・・・
「私も参加するわ」
公久の濃い顔に引いていたら突然、後ろから高校時代から馴染んだ声が聞こえてきた。
「なんだ
公久が残念そうな顔で答えた。
「なんだじゃないわよ!むさ苦しい男たちの中に一輪の花が舞い降りたのよ!さぁ席をお開けなさい!」
「いや、だからな?お前がどこかに居場所を作るイコール・・・」
「ぅおい!無視すんじゃないわよ!」
高校からのいつもの光景。
俺の数少ない友達だ。
だからこの後起こる事も知っている。
俺はブラックコーヒーを飲みながらゆっくり目を閉じる。さぁ、あと5秒くらいかな?
「いや、お前が花って謎じゃね?お前みたいな武力行使の体現者が花!?ラフレシアとかクッさいのなら納得するわ!!ハッハッハはぐぇ・・・」
5秒後、ゆっくり目を開くとあら不思議!名画公久の「叫び」完成!
足を勢いよく踏まれ悶絶する公久から離れ、こいつの横は嫌だと言わんばかりに明日菜が口を尖がらせながら俺の横に座った。
アスナは暴力的でなければモテるのに残念な子だ。ロングの栗色の髪にすらっとしたボディライン。大きくもなく丁度いい胸。肌も白く、切れ長の目、鼻筋も通っている。
高校時代からチヤホヤされるくせにイケイケ奴らとつるむでもなく、授業中もよく窓の外を見ていた。
クラスの男たちからはよく高嶺の花だのと騒がれていた。
そのため浮いた話はよくある。公久が知り合いに紹介してくれと頼まれて、哀れみの目を向けて断っていたが、熱意に負けてアスナを紹介すると翌日には頬なり心なりに傷を負って帰って来る。
まぁ俺にチャラい友達はいないので、というか友達コイツらだけだから紹介して欲しいとかはないが、高校、大学と「恋のトラウマ製造機」または「M男製造機」として良くも悪くも有名だ。
公久の幼馴染であり俺の実家の道場の生徒。そうでなかったら声もかけない。
「で?何の話?」
「痛ってーなおい!最上に研究室決めるかサークル入れって説得してんだよ!」
「いや、だからそれに何でコウが関係あるんだ?」
面倒だな。俺は早いこと『チタン銅合金線材』の資料を読み上げておきたいのに・・・・・
「他のことでは頭の回転早いくせに・・・最上、よく考えろ。コウは双子の弟だろ?お前ら同じ顔じゃん?何でコウがああで、お前がこうなのか考えたことないだろ?」
「あーコウ君ね〜そうゆうことか。」
「わかってるよ。人付き合いだろ?」
「何だ、気づいてんじゃん」
明日菜はどうでもいいとでも言いそうな澄ました顔でサンドイッチを食べ始めた。
「そんなことは既に検証済みだ。実験したが、結局同じ効果は得られなかった。」
高校の時からコウの周りには人が集まっていたが、俺の周りにはあまり寄ってこなかった。どうにかならないものかと、コウの振る舞いを試してみたことがある。
結果は「何だコウ君か」とか「入れ替わってんのかよ」となり、成果は得られなかった。
「最上〜そりゃお前の日頃の行動じゃね?」
「そうね、だってアキラ君、合理主義すぎるし、一言多いし信じられない物作るし・・・・とゆうかマッドね」
マッドて・・・確かに高校時代、ロボコン部にいた俺はロボコンには参加せずに自分の好きなように弄るばかりだった。
ある時、ふと校庭を見ると芝生が所々伸びていた。サッカー部の強い高校だったので結構広い芝が広がっていたため手入れが追いつかなそうだったので自走式掃除機と芝刈り機を改造してグラウンドに放ったところ駆動系をキャタピラにしていたため花壇の花までやってしまった。そのあと職員室に呼ばれて長々と説教をされたのを思い出した。
あれは失敗だ。あえて性能を落とすことを視野に入れ再開発だな!
まぁエピソードはそれだけではないが・・・
俺は集中すると、とことん打ち込める。
だが集中できる事が本当に俺がやり続けたい事なのかと聞かれたら俺は答えられない。
俺が勉強したり研究したりし始めたのは、得意だと分かったから、才能がなくても勉強すれば出来るようになるからだ。
人と関わるのが嫌いとかじゃない。
俺が一所に身を置かないのは、ただそこに俺の進む道があると思えないだけだ。
確かにこのままで良いとは思ってない。
だから色々な所で手伝いをしてを探している。
人生を費やすことのできるほど心を燃やすような、自分の使命だと言える何かを・・・・
「サークルや研究室を決めると関わらないといけなくなる。関わるとお前の人柄が見える。人柄が見えると・・・いや、顔が問題ないんだ!恐らくいける!いや多分!可能性はある!それで俺は気兼ねなく惚気れるって寸法よ!」
「いや、アキラ君には無理っしょ!うん、無理!!・・・・てか惚気るって・・・・?アンタ彼女できたの!?」
「あれ?言ってなかったか?」
そこから明日菜の質問タイムが始まった。いや尋問か。
とゆうか、さらっと無理とか言っちゃってるし・・・2回も!!まぁわかってるけど・・・
俺は自作のクッキーをほうばりながら二人の掛け合いを見ていた。
しばらくすると後ろから黄色い声が聞こえてきた。
あぁ、アイツが来たのか・・・。
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