第13話

ーー訓練場サイドーー


レオナールとアリウスが居なくなった訓練場では、気不味い雰囲気が漂っていた


「ま、まさか殿下がお忍びでいらっしゃったとは…。」


「だな。だが、この決闘をなかったことにしろって…箝口令まで敷くなんてどういうことだ?」


「ば、バカ‼︎考えてもみろよ!一つに公爵家ともあろう名家が…それも縁が遠いとは言っても王族でもあるグラエス家が、たかが名誉貴族に負けたとなると王族にとっても今後の威厳を損なう結果になる。もし知れ渡れば、下手したら器量を問われて内乱が起きるぞ!二つ目は、その…あれだ。あの殿下のことだから目を盗んで抜け出してきたんだろ?国王や宰相に怒られたくないんだろ。」


若干呆れ口調で自分の考察を述べる貴族に対し、聞いていた貴族もさもありなんといった表情を浮かべる


「とにかくだ…とにかく今回の件は闇の中に葬り去らないと、殿下どころかグラエス公爵家が何をしてくるか分からないぞ…。」


生唾を飲むように貴族は恐る恐る語る…そして、その視線の先には跪いたままブツブツと呟く公爵の姿があった


「あの、あの忌々しい小僧風情がいい気になりおって…私はグラエス家が当主エイル・フォン・グラエスだぞ‼︎それを…それを先祖が兄と弟で別れたというだけで良い顔をしおって、ふざけるなっ‼︎」


地面に右の拳を叩きつけ、血を滲ませながら憤怒の形相で歯軋りをたてる


そんな中、側に寝かせていたアスラが目を覚ます


「ん………っ、あれ?私は………。」


状況を思い出し、側にいた憤怒の形相の父…エイルを目にした瞬間、アスラは青褪めた。


「父上‼︎も、申し訳ありません‼︎あのような者に負けるなどあってはならないこと‼︎何かイカサマをしたに違いありません‼︎何卒、もう一度チャンスをお与えください‼︎」


アスラは、父の前で声を震わせながら頭を垂れる。


エイルは、そんなアスラに対し静かに…冷淡な口調で答えた


「構わん………。」


「…は、ハイ‼︎ありがとうございます‼︎で、では『必要ない。』早速準備に……………へ?」


「必要ないと言ったのだ。アスラついて来い。………あのような平和ボケした惰弱な王等もういらぬ…。」


「えっ、それはどういう…って父上お待ちください‼︎」


鬼気迫る表情でアスラにしか聞こえぬ程度の声で告げると、レオナール達と反対側にある出口に向け足早に去っていった……訓練場内に不穏な空気を残して……………。





ーーレオナールサイドーー


レオナールとアリウスは、公爵家の中庭にある休憩スペースにて対面し座していた


「で、殿下、私に何かご用でしょうか?」


痺れを切らしたレオナールはアリウスに話し掛ける


「ん?ああ、堅っ苦しいのは無しだ!二人でいる時はアリウスで構わん。それに年も近いだろ?タメ口で良いぞ。」


アリウスは、苦々しく心底嫌そうな顔を浮かべながら敬意は必要ないと話す


「い、いや、流石にそれはご勘弁下さい!」


いやいや、王子を呼び捨てにしかもタメ口なんて出来るわけ無いだろ‼︎


レオナールは、冷や汗をかきながら座して頭を垂れる


「構わんと言っているだろ?俺の命令が聞けないのか?なら、決闘をした罰で打ち首にしてやろうか?」


「んな……………⁉︎」


アリウスの返答に対し驚愕の声を上げながら顔を上げると、当の本人は悪戯が成功したと言わんばかりにニヤニヤと笑みを浮かべていた


「まあ、とにかくだ。私が良いと言っているんだからその通りにしろ‼︎反論は認めん!」


アリウスは、腕を組み端正な容貌にも関わらず人を惹きつけるような人懐っこい笑みを浮かべながら話す


「………………っ、承知しました。はあ…。」


そんなアリウスを見てしまうと、断ることもできないレオナールは了承するしかなかった。


「うむ。それで良い。…でだ、レオナール…いや、レオお前を呼んだのは他でも無い…ある重大な任務を与えたいからだ…‼︎」


真剣な表情で只ならぬ雰囲気を出しながら言葉を発するアリウス……レオナールは、その只ならぬ雰囲気を受けてか、生唾を飲み返答する


「わ、私にですか⁉︎…10歳になったばかりですよ⁉︎それに重大な任務⁈失礼ながら私如きに請け負えるとは到底思えません‼︎」


いや、アリウスはバカなのか⁉︎いや、バカだ‼︎何をさせる気だよ‼︎


内心アリウスをディスりながら頭を垂れる…しかし、次の瞬間空気が固まった。アリウスから発せられた次の言葉は余りにも予想外であったためだ。


「ん?重大な任務と言ったが大したこと無いぞ?お前が俺の魔法の師になってもらいたいと思っただけだ。」


アリウスは、さも当たり前のように発言する。


「……は?…いえ、申し訳ありませんっ‼︎何で私なのでしょ……なんですか?」


厳しい目付きで敬語を使うと諌められるため、レオナールはタメ口に切り替える。


「なんでと言われても、お前実力隠してるだろ?」


惚けたような顔で笑みを浮かべるアリウスに対し、レオナールは驚愕した。


「な、なにをいってるんです?そんな僕の実力は鑑定石でわかったでしょ?そんな隠すようなもの持ち合わせてないですよー…」


『だから、主、お前少しは学べよ…。』


『……はぁ。』


『主、少しは態度に出ることを自覚するべきです。』


イグニス、ウェントス、アクアがそれぞれ念話で諫めてくる。


………ごめんなさい。


『フォッフォッフォッ…主よ、あやつのステータスを見てみなされ。』


ステータス?あっ、結局みてなかったな!


ルーメンのアドバイスに従い、アリウスのステータスを鑑定した。

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