農協おくりびと 91話から100話
落合順平
農協おくりびと (91)インターネットで野菜を売る
「野菜が1ケース、1000円で売れた場合。
市場の手数料が8.5%で、85円かかる。
さらに地元農協の手数料として2%。県連が1%。計3%の費用がかかる。
それだけじゃない。
さらにここから、農協さんがいろいろな名目の経費を徴収する。
農協から買った箱の値段が1箱あたり、50円。運賃として一律、100円。
さらに減価償却費として30円。選果手数料の30円。
合計210円が、出荷手数料に上乗せされる。
いろいろと差し引かれ、残った675円が農家の手取りになる」
「そんなにかかってしまうの、野菜を出荷するための経費って!」
「農協に勤めているお前さんが、そんなに大袈裟に驚くことはねぇだろう。
最近は農協を通さず、直接、市場へ持ち込む農家が増えている。
この場合。生産者部会へはらう手数料と、箱代、運賃だけで済むから
かかる費用は、およそ200円。
生産者の手取りは、800円という事になる。
農家の農協離れがすすんでいるのには、実はこうした経費の裏事情がある」
「たしかに手数料を取り過ぎていますねぇ、農協は。
そこへ勤めているあたしが言うべき言葉じゃ、ありませんが・・・」
「だが最近はもっと、別の流通方法が発生してきた」
「最近増えてきたものと言えば、外食産業や加工業者との直取引かしら?」
「それも有る。だが、それだけじゃねぇ。
インタネットを活用して、自分たちの手で農産物を売ろうという試みだ」
「インターネット?。インターネットで野菜が売れるの?、いまは?」
「いいかげんでガラケーの時代から卒業しろ、お前。
いつまでも古い機種に執着しているから、時代に乗り遅れるんだ。
インターネットで注文して、宅配便で品物が受け取れる時代だぞ、いまは」
「そのくらいは知っています、ガラパゴスと呼ばれる古い人種でも。
ネット上にショップをひらいて、農産物を売ろうという戦略なのかしら?。
もしかして」
インターネットの普及は、物流を根本から変えようとしている。
客は商品を陳列している店舗へ行かず、ネットの中で買い物することができる。
気に入ったものが見つかれば、カートにいれるだけで取引が成立する。
発注した商品は数日のうちに、宅配便で手元へ届く。
「店舗を持たず、物品の売り買いができる時代がやって来た。
通常の物流では、農産物が消費者の手元へ届くまで早くても3日から4日はかかる。
市場から仲買の手を経て、商店の店頭に並ぶからだ。
ネット直販ならその日のうちに、新鮮な野菜を発送することができる」
「本格的な農産物の通販ネットを、立ち上げるわけですか!。
凄いなぁ、あんた。本気でキュウリで金メダルを取るつもりなのね」
「俺は嘘つかねぇ。
ただし、インターネットとパソコンの勉強は、これからの話だ」
「えっ・・・大風呂敷ひろげたくせに、ネットの勉強はこれからなの!。
呑気な話ねぇ。大丈夫なのかしらねぇ、そんな頼りないことで」
「馬鹿やろう。為せば成る 為さねば成らぬ何事も 成らぬは人の為さぬなりけりだ。
慌てることはねぇ。一生をかけて金メダルを取りに行くんだ。
何事も小さな一歩から、諦めることなく、俺は天下を取りに行く!」
「なんだかなぁ・・・」ちひろが、目を細めて笑う。
甲子園に憧れ、汗と涙を流してきた高校野球も県大会の4位どまり。
志をもって挑んだはずのプロゴルファーの道も、ステップアップツアーで
トップツアーには上昇できない、4位止まり。
27歳で2つも辛酸をなめてきた男が、あらたな野望を持ってキュウリの世界へ立ち向う。
頼もしいと思って聞いていたが、肝心のネットの勉強はこれからだと言う。
ナントも呑気な27歳に、(ふふふ。案外、可愛いとこ有るじゃん、こいつにも)
と、あらためてちひろが目を細めて笑う。
(92)へつづく
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