異世界帰還者な俺は平穏を求めます!
花の人
俺が求めてるのは平穏だ!
プロリーグ! ←プロローグな......
「――ようやく見つけたぞ、魔王!」
ここは魔王城......その際奥たる部屋、王室。きらびやかな装飾と共に、魔物と思われる異色な造形の生物の像がいくつも飾ってある。
俺は、長い長い階段の上で、禍々しい椅子に座っている魔王をキッと睨み上げた。
......長かった。ここまで来るまでに、もう一年も経ってしまった。
幾多の魔王の軍勢と戦い、様々な人の助けを借りて......今、俺は遂に魔王と対峙したのだ!
「ふっふっふ......我の配下を倒し、よくぞここまで来たものだ、勇者よ」
ご丁寧にも足を組み直して、魔王は低い声で言った。
影になっていて表情は伺い知れないが、その声に含まれる感情から察するに、きっと片頬を吊り上げた余裕の笑みでも浮かべているのだろう。
へっ、舐められたものだ。今すぐその余裕の笑みを、恐怖に震える乾いた笑みに変えてやるぜ!
「――魔の力よ、俺に集え! 《ダイズ》!」
つきだした両手に魔力を集中させ、階段の上で座っている魔王に向けて射出するイメージ。
みるみる内に俺の腕の前には直径一メートルほどもある紫色の球が生まれ......突如としてそれは、この世の悪の根源たる魔王の下へ弾の如く撃ち出された。
大豆なんて俺は知らない。
――さて、まさかこれで仕留められるとは思わないが......魔王はどんな行動を取るか......それによって次の一手を考えなければ......
と、思っていたのだが。
「ちょ、ちょっとタンマ! 遠距離からの攻撃はずるいぞ! 卑怯だぞ! ぶっ殺すぞ!」
――誰?
思わず俺もそう思ってしまうほどの、甲高い少女の声。
見ると、先の一撃を受けて天井と階段が崩れ落ち、見るも無惨になった王室の瓦礫の下から、必死に這い出す一人の少女の姿があった。
「――あー、死ぬかと思った! 死ぬかと思った!」
何故二度言った。そして何故こちらを睨む!
「私の攻撃範囲外から超威力の一撃とか、それが勇者のやり方なのかよ! ぶっ殺すぞ!」
今の小手調べの魔法だったんですけど!? っていうかそれ以前に!
「お、お前が魔王なのか!? こんな......」
「そうだそうだ! わた......コホン、そう、
言って、魔王は腰に手を当てて高笑いを始めた。
燃えるような赤い瞳と、ストレートに足の付け根まで伸ばした艶やかな金髪。更にそのの上に生えた二本の捻れた黒い角......確かにこれだけ見れば魔王っぽいけど......
小学六年生程度の小さな身長。
眠そうにトロンとした目元。
うさぎさんのパジャマ。上下共に。
......それ以外ただの少女じゃないか! 角付けた寝起きの可愛い美少女にしか見えねぇよ! そりゃ今夜中だけどさ! 仮にも魔王ならもっと魔王らしい格好してくれよ!
「ツッコミどころが多すぎる!」
「えぇ!?」
そんな手を上げて大層に驚くなよ! 自分のことだろ!? もうツッコミどころが多すぎてツッコむ気にもならねぇよ!
「ふぅ、ふぅ......」
「大して喋っていないのに、何故息を切らしているのだ? 勇者よ」
「心の中が夏休み中の市民プールみたいに大忙しだったからな! お前のせいで!」
くそ、多分今の発言で気付いたろう俺の正体を皆様に話したいというのに、このハチャメチャ魔王のせいで中々タイミングが掴めねぇ! こうなれば強引にやってやる!
――俺、
以上! 俺の説明おわ
「ねぇねぇ、考えてたんだけど、やっぱり『しみんぷーる』の意味が分からなかった! おしえて!」
「お前はどうしてそこで台詞を挟むかなぁ! ここまで説明できたんだからせめて最後まで言わせてくれよぉ! このクソ魔王め!!」
魔王に自己紹介を邪魔されてガチでキレる勇者の姿がそこにあった。
ていうか俺だった。紛れもなく俺だった。疑いの余地なく俺だった。
阿良○木君のネタをパクっている勇者もまた、俺だった。
「なんだか悲しくなってきたぜ......」
一人勝手に落ち込み、ガクンと項垂れる俺。
もうなんだか、魔王と戦う気もしない。
「チャンス!」
そんな小さな声と共に、突然俺の腹に一発の拳が当たった。
そう、当たっただけで、痛くも痒くもない。それどころか。
「うぎゃー! 痛いー! あ、あー! 死ぬ! チクショー、ぶっ殺すぞ!」
自分で痛がっていた。バカである。
「お前その最後の『ぶっ殺すぞ』は本気で言ってんのか? ぶっ殺すぞ」
「ごめんなさい殺さないで下さいどうか命だけはお助け下さい!」
立場が逆転するとただのヤンキーだった。ヤンキー勇者だった。端から見れば、寝起きの美少女を脅す青年にしか見えない。少女には角があるけれど。
っていうか魔王も魔王で下手に出すぎだろ。さっきまでの『やってやるぜ』みたいな意気込みは何処に消えたんだ?
まぁいいか。とにもかくにも、俺にはやらねばならないことがある!
「なら、教えて貰おうかァ......ゲートは何処にあるんじゃボケェ!!」
少女を恫喝するヤンキー。もはや勇者ですら無い。
自分で言ってて更に悲しくなって来たぜ。いつの間に俺は勇者からヤンキーにジョブチェンジしたんだ。十秒前か。
「ひ、ひぃぃ!! げ、ゲートならあちらにありますぜ親方ぁ......な、なのでどうかお命だけはご勘弁を......」
「お前ノリいいな!」
思わずツッコんじまったよ! なんなんだよこいつ! ホントに魔王かよ!
「あぁもう分かった分かった! 取り敢えず、俺はゲートから俺の世界に帰れればいいから......ほら、どっか行っていいぞ」
なんだか戦うのが馬鹿らしいどころか、相手にするのが面倒になって来たのでしっしっと手を振る。
「そ、そうですかい親方ぁ......うへへ、そんじゃ......」
スサッ、と俺に背を向け、スタンディングスタートのポーズで構える魔王。その方向は、自分でゲートがあると言った方向だった。
「さらばだ勇者よ! 今の我では貴様に勝てぬようだ! だが、次会った時は必ず勝つ! それまで精々力を蓄えておくがいい! ふはははは!! ふははははは――!!」
高笑いを城に響かせながら、魔王は走り去って行った――
「いてっ」
こけるのかよ。
「ふ、ふはははははー......」
元気無くなったなオイ。もう無事ゲートまでたどり着けるか心配になってきたよ!
◇ ◇ ◇
暫く経ち、嵐のような時間の余韻も過ぎ去ったところで、俺はようやく気が付いた。
「はっ、結局俺、魔王倒してねぇ!!」
魔王を倒さなきゃゲートは開かないらしいのに!
「あーあ、やっちまったなぁ......」
完全に乗せられてしまった......あの魔王、案外できる奴なのかもしれない。
......一応、ゲートは覗いておくか。
「はぁ......」
トボトボと魔王が走っていったところと同じ道を辿って、数分。
そこには半開きになったゲートがあった。黒々とした扉の奥に見えるは、青い光の渦。
「......あいつ、扉も閉めないんだな......」
前言撤回。やっぱりあの魔王は純粋なバカだった。
まぁそのおかげで、今回助かったわけだけど。
「よし、それじゃあ......帰るか」
色んなことがあった。全てを語ろうと思えば、それこそ一つの小説として作品が作れそうなほど、凄まじい冒険の数々が。
今まで出会った仲間達、苦戦の末に撃破した強敵達......全ては、この時のために。
不安がないわけじゃない。たかが一年とは言え、されど一年。ここで手に入れた日々を捨て、もう一度あちらの世界に行くことに、恐怖だってある。
だけど、全部はこの時のための行動だったのだ。俺は帰るために、ここまで来たんだ。皆も、見送ってくれた。
今更引き返すなど......するはずがない。俺は帰ると誓ったのだから。今、その誓いを果たす。
「うおぉぉ――!!」
半開きだったゲートを完全に開き、俺は光の中へと飛び込んだ。
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