古代史最大の謎が眠る場所。あ、ついでにハニワもね。
大阪府高槻市。私が生まれ育った街。
東西に狭く南北に広い地形は、「不思議の国のアリス」の挿絵に描かれたドードー鳥が背伸びしたような、とぼけた姿をしている。北端は、市域の48%を占める緑濃い山林地帯。北摂随一の景勝地と知られる摂津峡からの流れは、市の南端で豊かな水量を誇る「淀川」と名を変えて、大阪湾に流れ込む。
自然豊かなベッドタウンとして、「転勤族に人気の住みやすい街」ランキングトップに必ず上がる高槻市。大阪市内にも京都市内にも近く、駅前に大手百貨店が立ち並ぶ便利な所だけれど、何より素晴らしいのは……
「歴史の宝庫」だと言うこと。
高槻市は国内有数の古墳群地帯だ。
古墳時代初期から末期までの古墳が数多く現存しているが、中でも「
市内の至る所で見かける「はにたん」は、その名のごとくハニワがモデルの市のゆるキャラだ。ご存じない方は高槻市のウェブサイトをご覧頂きたい。思わずツッコミを入れたくなるプロフィールが秀逸。
市内を走る市バスの中に「はにたんバス」なるものが存在する。初めて乗った時の感想は「ここまでやるか、高槻市」だった。興味のある方は是非ともググって頂きたい。画像検索がオススメだ。
バスの内装は、座席から天井まで「はにたん」と仲間達(もちろんハニワ)のイラストで埋め尽くされ、車内広告代わりの「ハニワ豆知識」的な情報がなかなか面白い。車体のラッピング広告は、にっこり微笑む特大の「はにたん」とその仲間達だ。
このバス、神出鬼没で、乗れた日には「今日は一日ラッキー!」と根拠のない幸福感に浸ってしまう。
私の相方は、
「日本人は本当にマンガ好きだな。こんな子供向けの絵がデカデカと描かれたモノが市バスとは、実に日本人らしい発想だ」
「はにたんバス」の車体には「いましろ 大王の
なぜ「森」ではなくて「杜」なのか?
キーワードは「いましろ」と「大王」だ。
考古学好きの方ならピンと来るだろうが、「いましろ」は「今城塚古墳」、「大王」は埋葬されていた貴人を指す。「杜」は人工の森や神域を表す。
近畿地方は大規模な前方後円墳が多く見られる。
特に有名なのが、堺市の
最も墳丘に近づけるのは正面にある拝所で、二重の
実際に拝所に立った時のこと。
私 「……なんか、こんもりした森やね」
相方「森と言うか、山だな」
世界最大級の墳墓の最大の弱点は、巨大過ぎて地上からは「ただの山」にしか見えないという悲しい事実だった。上空から見ない限り、あの写真のようには見えないらしい。
話を「いましろ 大王の杜」に戻そう。
「今城塚古墳」は淀川流域で最大級の前方後円墳で、被葬者は6世紀のヤマト政権の大王と推定されている。この古墳から出土された埴輪は前出の「新池埴輪制作遺跡」で作られたらしい。
駅前から市バスに揺られること数十分。閑静な住宅街に突然、里山のような緑豊かな空間が現れる。「今城塚古墳公園」だ。
中央部のこんもりとした森、いや「杜」が古墳だとは、やはり地上からだと分からない。
公園内で特に目をひくのが、200体以上の埴輪(レプリカ)からなる古代葬儀祭祀場だ。人や動物などを模った埴輪が整然と並べられ、被葬者の権威を示すハニワ祭祀が再現されているのは日本でここだけらしい。
私 「あ、馬のハニワ! アヒルもいる! 乗っても怒られへんかなあ?」
相方「子供が遊ぶ公園内にあるんだから大丈夫だろう………って、こらっ! 子供じゃないんだから止めてくれっ、恥ずかしい!」
墳丘をくるりと囲む芝生の広場では、親子連れがお弁当を食べていたり、子供たちが野球をしていたりと、ごく普通の公園の風景である。広場から墳丘に続く小道を辿って丘の上を散策している人々の姿も……
へ?
墳丘の上を、散策?
『大王クラスの陵墓は宮内庁が厳重に管理をしているため、内部に立入る事を禁じられている』
大王、すなわち皇族に繋がる貴人が埋葬されていた墳墓を踏みつけるなど、もってのほか……のはずだが、仁徳天皇陵にあったような厳重な柵など設けられておらず、立入を禁じる標示もない。
私 「ねえ、これって古墳やんねえ。ただの小高い丘じゃないやんねえ」
相方「聞く人間を間違っていやしないか?」
近年の調査で、この古墳は聖徳太子の曽祖父に当たる第26代
結果、天皇陵と認められる事なく、今城塚古墳は誰でも自由に立ち入ることが出来る市民の憩いの場となったわけで。
実在が明らかな日本史上最初の天皇でありながら、それ以前の天皇との血縁関係があまりにも薄い継体が天皇として即位した事実は、実は「日本古代史最大の謎」なのだ。
京都や大阪の観光地を回った後に、ふらりと高槻に立ち寄って、古代のロマンを感じながら墳丘を散策してみては?
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