第2話

「なるほど…道理でお主がここに来れるわけじゃな」


竜は1人納得したとでも言う様に数度頷いた。

何がなるほどなんだ。と優紀は言いたくもなったがそれよりも…さっきからここに来れるわけが無いという言葉を繰り返している事に恐怖しか感じない。

気のせいでなければさっき毒霧とも言っていた。


(ここって…危険地帯の中でもやばいクラスだった?)


思わず顔顰め、不安を隠せずに手をぎゅっと握りしめる。


「ん?……おぉ、そうか…お主はこの地を知らぬ赤子同然だったな…。仕方ない、これも何かの縁じゃ。気になることは質問せい」


その様に気付いた竜は気前よくそう言った。

竜は、ずっとここにいるからこそ、話し相手ができた事に少し気分を良くしていたのだ。

例えそうでなくとも、教える気はあるが…

もちろん優紀がそんな事を知るはずもなく、何を質問するかを頭の中で整理していく。


(……帰れるかどうかは後にしておいて…まずは状況整理ができる状態までまとめないと後で質問に答えてくれなくなった時に困る)


「えーっと……ここ…というか…この世界?は何………ですか?」


「無理に敬語なんぞ使わなくていい。…そうじゃな…世界、という表現するならば『マルゼリオス』と言う。三女神様とその使者である五大精霊が統べる地じゃ。そしてここは、ありとあらゆるものの『終着地点』と言うべきかの」


予想以上に意味がわからない言葉が語られる。正にRPGという感じだ。

単語単語はわかっても、こうも意味がわからないと別の言葉に聞こえるなんて思いもしなかった。

取り敢えずどんな世界なのか聞くべきだろう。

優紀は敬語じゃ無くていいという言葉を受け、敬語を使わずに質問をしていく。


「この世界は…マルゼリオスはどんな発展の仕方をしてるの?」


「それは…難しい質問をするのぅ」


そう言いながらも竜は楽しそうに口元を緩めて考えを纏める。


「……魔法が特に発達しておるな。科学なるものもあるがあまり発展しておらん。楽しそうではあるがやはり魔法には勝てんかったようじゃ。…後は個人的じゃが各大陸で楽しめる料理はもちろん、絶景は何年見ても飽きぬ様な素晴らしいところばかりじゃわい。旅をするならば必ず欠かせん事じゃよ」


思い出すだけでまた行きたくなる。言いながら竜は今までの思い出を振り返った。

優紀にとっては未知数でしかない世界である以上、進んで見たいとは思えないが…だが科学の発達は少なく、魔法が発達しているところを考えると明らかにファンタジーに部類される世界なのだろうとは思えた。


「…そういう世界なんだ…。じゃあ、三女神様というのは何?」


「三女神様とは、死と光を司りし女神『リュオーリオ』、生と闇を司りし女神『マゼリオ』、時と空間を司りし女神『ルースリオ』の事を指す。マルゼリオスを創りし者達じゃ」


つまり、創造神の様な立ち位置という事だろう。

しかも優紀の知る神とは違い、この世界の神はもっと密接なものの可能性が高いとも思えた。

五大精霊と言うのは、火水地風雷と言ったところか。精霊がいるのならば魔法もそれに依存してそうだ。

もしあるならば使ってみたい、教えてくれないかな。という邪な考えも浮かぶが

、それも今聞くべきではないと優紀はその考えを振り払う。


「…終着地点ってもっと詳しく言うと何なの?」


「ふむ……優紀にもわかるように言うと、要はこの世の魔素や魂が帰る場所じゃ。使い終わってるが故、此処は自然と荒れ果てた地となっておる。此処で全てが浄化された後、また何処かで新しい種となり、芽吹くんじゃよ」


全ての物質の終着地点。魔素は元素。還元、酸化のシステムみたいな物があるっていう解釈でいいのか。

魂の存在もあるなら転生というものもあるんだろう。

これらの事はそこまで理解してなくても平気そうだ。

そんな事よりも、優紀には最重要で聞かなければいけない事が出来ていた。


「……それだけだと私が此処に来れない理由にならないよね?むしろ相殺でもされて割と安全な場所なんじゃ…?」


「うぅむ。気付いたか……確かに、本来ならば人も此処に来れた」


竜は一気に表情を暗くし、本来ならばと含みのある言い方をする。

しかも過去形であり、今は来れなくなるほど酷い事が起きたという事になりそうだ。

不穏な空気になってしまった事に気付いて唾を飲み込む。


「いつじゃったか…5年ほど前からだったかの、三女神様は突然何処かへ行方を眩ましおった。その影響で五大精霊は眠りについておる。精霊が眠りについた事で此処の浄化の機能も失われ、ずっと使い古された物が溜まっておるのじゃ。呪いや、毒も今こうして霧となって止まっておるんじゃよ…」


竜は悲しみから顔を顰めて霧に包まれた空を見上げる。

その声は、一段と憂いを帯びていた。

しかし竜がそうなるのも無理はない。

世界の循環が止まっている。それはまぎれもない、世界そのものが終わってしまいかねない一大事なのだから…

優紀もその事を理解し、少し哀れみにも似た何かを思う。だがそれより、冷や汗がどっと出て止まらなかった。


(呪いや毒が滞留してる?毒霧ってそういう事?え、でも此処に来るまでに沢山吸っちゃったよ?だからあの時狼モドキは来なかったのか!)


今更ながら、此処に人が来れない理由と毒霧の危険性を知り、背筋が覚める思いで口を塞ぐ。

それを見た竜は微笑んだ。

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