【短編集】魔法少女SE
黒羽 晃
岸咲暮羽†トリガーハッピー(前)
街を見下ろす鉄塔の上。パーカー姿の少女
まるで獲物を探し求める鷹を思わせる双眸は、繁華の通りを歩く人混みを一人一人観察し続けている。かれこれ三時間ほどだろうか。その間、ずっと。
「……あー、しんどい」
『しんどいとか言わない。これも仕事なんだから』
ついつい溢してしまった呟きを聞き逃さず、スマートフォンの向こう側の人物は嘆息混じりに言った。
「仕事って言っても三時間ずっとここで待ってんですよ? そらしんどくもなりますっての。ウチじゃ無かったらとっくに投げ出してますよ」
『だから貴女に頼んでいるのよ』
「はいはい分かりましたぁ---見つけた」
見つけた。そう言った直後に暮羽は電話を切り、ポケットに突っ込む。スピーカーから『えっちょっ』とか聞こえてきたが、それは完全に無視した。
傍に抱えていたケースを開け、中の赤錆色のスナイパーライフルを取り出し、構え、繁華街へ向ける……この間一秒未満。この一連の動作の最中、暮羽は一度もライフルを見ていない。
「魔法少女
スコープを覗かず、暮羽はライフルの引き金を引いた。重い発砲音が鼓膜を揺らし、反動が肩を押す。
銃弾は繁華の人混みの中へ飛んで行き、ある女性の側頭部へと命中した。
女性の頭部が砕けた後、辺りに発砲音が響き渡り……
暮羽は鉄塔から飛び降りた。地面に着く間に彼女の全身は赤い光に包まれていく。
……数秒後、状況を理解した人々は恐慌状態に陥り、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。周辺はいったん静寂に包まれるが、数分後には救急車やらパトカーやらが飛んでくる事だろう。
暮羽の足が地面に着くまでに暮羽を包む光は収まり、その中からは装いを大きく変貌させた暮羽が出てきた。赤色を基調とした、軍服とドレスの中間のような衣装。
マントを翻して暮羽は着地する。直後に跳躍。民家の屋根に着地、跳躍。それを繰り返し、暮羽が狙撃した女性が倒れた地点まで向かう。その間に、マントの内側からサブマシンガン…トンプソン・サブマシンガン、トミーガンと呼ばれる場合が多い…とハンドガン…M1911、コルト・ガバメントと呼ばれる自動拳銃…を取り出した。
一方、側頭部を砕かれた女性はと言うと、起き上がって弾の飛んできたと思われる方向を向いていた。が、やがて狙撃手がいないと分かると、自らの影から二振りの
それから数秒もしない内に、ふたりは邂逅を果たす。
暮羽は、影から生み出された短剣を構える女性を認めると、二階建ての建物の屋根から飛び降りて女性の前に立つ。そうして左手のハンドガンを女性に向けた。
一秒未満の静寂のあと、暮羽が口を開く。
「申し訳ないんですけど、これも仕事なんで。大人しく殺されてくれると嬉しいんですが」
無論、申し訳ないなどとは微塵も思っていない事は分かるだろう。暮羽の目は女性を油断無く見つめている。指は引き金にかけてあり、直ぐに発砲できる状態だ。
女性が、暮羽に答えるように呟く。
「死にたくないから」
先に仕掛けたのは女性の方。左手の短剣を暮羽に向けて投擲し、前屈みになって駆け出す。
「じゃあ……殺す」
それに対し暮羽は躊躇わず、ハンドガンで短剣を撃ち落とす。女性は右手の短剣で暮羽の首を切ろうとするが、暮羽は上体を反らす事でそれを避けた。
次いで、右足のかかとでバックステップ。半歩分の距離をとり、女性の胸部に、ほぼゼロ距離でサブマシンガンを乱射した。
「ぐ……ッ!」
怯んだ隙に女性の腹を蹴り飛ばす。肋骨を折った感触を足に感じる。そのまま、4mほど吹き飛んだ。
二、三度バウンドし、女性はうつ伏せになってそのまま動かなくなる。胴の部分からは血が流れ出て、人間が見れば、既に死んでいると判断しただろう。
しかし暮羽は、警戒を解かない。ハンドガンとサブマシンガンをマントの内側に入れ、また中からガトリング銃…M134、ミニガンと呼ばれる小型のガトリング銃…を取り出した。
「本番………ッ♡」
どこか艶めかしい声で暮羽が呟くと同時、倒れた女性から真っ黒なヘドロのような物体が溢れ出す。それは、やがて集合し、固まり、巨大な節足動物の像をとった。
その異形の怪物は、自らの宿主を殺害した相手……魔法少女、暮羽を視界に映すと、まるで金属を高速で擦り合わせたような奇声を上げる。
醜悪な見て呉れ、人の本能が恐怖を感じる全てを集約した存在のように見えるそれを前に、暮羽は……
「 に が さ な い 」
……しかし、凄絶に笑っていた。
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