Side〝破〟-6
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たっくんこと、本名、
真幌大学理工学部在学中に飯田たちと知り合う。あまり人付き合いは良くないらしい。煙草も酒もせず、麻薬などとは全く縁がない。両親は早くに他界し、以来ずっと一人暮らしだそうだ。
僕は妙な親近感をおぼえた。経歴だけなら僕も谷川君と同じようなものだ。
谷川君はドアの向こうだ。僕は廊下にあぐらをかいて座っている。
「殺すなんて、滅多に言うものじゃないよ。そんなに憎いなら、まず警察に相談しようよ。あ、飯田は警察官なんだっけ。でも階級のこと知ってる? 彼は巡査。一番低い階級だ。僕は警部補。キャリア組って言ってね、官僚候補なんだ」
相槌もツッコミもない。
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「来年度、どこかの署長に任命される。だからさ、少しの融通は通るんだ。教えてよ。黛って誰? 卑怯な事って、君に何かしたの?」
「うるさい」
「どうして爆弾を作ってるの?」
僕は谷川君の声を必死で拾った。
「爆弾なんて、作ってない」
「嘘だね」
「なんでわかるのさ」
「刑事としての勘」
「……くだらない」
話に乗ってきてくれた。
「じゃあ聞くけど、どうして他人の家にひきこもるの? 部屋の中に見られたくないものがいっぱいあるんじゃないの?」
「快君が住んでもいいって言ってくれたんだ。だからここにいるだけだ」
「その快君が自白したんだよ。谷川君が爆弾を作ってる、ってね。僕としては君を信じたい。でも、君が信じている人が言っている事と、君の言っている事が矛盾している。それじゃあ僕は君が嘘をついていると考えてしまう。だって君はひきこもりの卑怯者だから」
ドン、とドアを蹴飛ばす音がした。
「そうさ! 俺は卑怯者だ! 別に信じてもらおうなんて思わないね! わかったらさっさと帰れ!」
「じゃあ君を信じない。中に強行突入するよ。爆弾、作ってるって自白したから」
「あ……」
やっぱり僕と同じような頭の造りをしている。僕も母に何度かこうやって言いくるめられたから、こういう子の思考は読める。
きっと今、混乱して立ち尽くしているだろう。
僕はドアノブの周りを数回蹴って壊した。これで大概のドアは開く。
部屋の中はさっぱりしていた。
テーブルの辺りに機械類が転がっていて、あとは窓際にベッドがおいてあるだけだ。
「近づくな。火ぃ入れるぞ」
谷川君は、テレビのリモコンのようなものを握って、震えていた。
僕は爆弾の本体らしき物を見つめた。デジタル数字が四つ、9を映している。
どうやら谷川君の持つリモコンで作動させるらしい。
爆発物研修で見たものとそっくりだ。
「いいよ。スイッチ押しても」
「な、何だと?」
「君が押した瞬間、君を窓から突き落として、僕も飛び降りる。運が悪くても骨折ですむからね。後の事は仲間に任せる。そうだなぁ……査問委員会にかけられるけれど、キャリアより命のほうが大事だからね」
僕は笑った。
さっきまでビビリきっていたのに、今はすごく冷静な自分が可笑しかった。
「俺はどうなる?」
「逮捕だね。爆発させれば、間違いなく」
谷川君は魂が抜けた様にだらん、と腕を下ろした。
「……警察は嫌いだ。捕まりたくない」
そしてベッドに座り込む。
「間に合うかもしれないよ。ここだけの話、僕の所属部署は事件隠蔽やっているんだ」
谷川君は目を丸くした。
それはそうだ。僕だって信じられない。
「双頭というマフィアとも、きっと戦う。もしその組員が」
「じゃあ、あんた、黛の命令で来たのか?」
「えっ……君の言ってる黛って、まさか、黛本部長のことかい?」
「そうか、隠蔽……それで黛はあんな事を」
黛本部長が卑怯者?
あんな事って?
「刑事さん、快君は悪くない! 悪いのは全部、黛なんだ! 俺が証明す」
そこまで言って谷川君は横に倒れた。
「谷川君? どうした?」
返事がない。僕は近寄って、谷川君の体を揺する。
「おい、大丈夫か? 谷川君?」
こめかみから血が流れている。僕は窓を見た。
ヒビが、入っている。
ん?
向かいの家の住人、避難していないのか?
あ……れ?
床が……目の前に……胸が、血?
痛っ……息っ、声っ、体っ……
う、撃た……?
何故?
どう……して?
意……が、なくな……
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