AtomicCity ~伝えたい想い~

小暮悠斗

第1話 出逢い

 茹だるような暑さに辟易しながら健康的な黒い肌に白い歯を覗かせる少年は緑の中を駆けてゆく。木々の合間から差し込む光へと向かう。生い茂る草木をかき分けて緑を抜けると舗装されたアスファルトの道が九十九折に続いていた。

 このまま帰ってしまってもいいが、炎天下の中帰るのも馬鹿馬鹿しい。

 もう少し涼しくなるまで緑の中で遊んでいようと再び緑の中に飛び込んだ。


目の前には大木が異様な存在感を放っていた。

 恐る恐る近づいてみると、根元には人が一人入れる程度の穴が掘られていた。

 相当な深さなのか、覗き込んだ穴は真っ暗で底は見えない。

 穴の放つ雰囲気は異様ではあったが、恐怖心よりも好奇心のほうが上回り足を踏み入れた。

 

 穴の中は意外と広く、土の香りとひんやりとした土の冷たさが心地よかった。

 まるで天然のクーラーだな。手足を放り出し寝そべった。

 ああ、気持ちいい。

そのまま睡魔に襲われ知らぬ間に眠りへと誘われていた。


 ふあぁぁ―。

 大きく伸びをすると同時に大量の酸素を消費して二酸化炭素を吐き出す。

 眼を擦りながら身体を起こす。

 どうやらかなりの時間眠ってしまっていたようだ。

 未だに視界はぼやけている。そんな中透き通るような声が僕を呼ぶ。

 「こんな所で何しているの?」

 その声に導かれるように視界が開ける。

 眼の前には、長い黒髪を後ろで二つに束ねたおさげの女の子が覗き込むようにして此方を窺っていた。

 

 「私はみち子っていうの。あなたのお名前は?」

 「守」

 「何か怒ってる? さっきから眼合わせてくれないし……」

 そう言って顔を覗き込むため無造作に顔を近づける。

 咄嗟に顔を背ける。

 「ほら、やっぱり何か怒ってるでしょう。寝ているのを起こしたから?」

 「そんなことで怒ったりしないし……」

 「じゃあ何なの。話してくれないとわからないよ」

 話せる訳ないだろ。初めて眼が合った時から心臓がバクバク五月蠅くて落ち着かないなんて。多分これが一目惚れというものなのだろう。そんなこと恥ずかしくて口が裂けても言えない。

 「別に怒ってるわけじゃないよ」

 「まあ、それならいいけど」

 納得はしていないようだがみち子はそれ以上追及するのをやめた。

 

 それから二人は日が暮れるまで遊んだ。

 橙色に染まる空を眺めながら二人は互いのことを横目に見ながら言葉を切り出すタイミングを見計らっていた。

 どちらともなく、『また明日』と言葉を紡ぐ。

 重なった互いの声に笑い合い、改めて告げる。

 「また明日」

 「うん、また明日」

 そして二人は別れた。

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