なつのにおい
はかせ
第1話「なつのはじまり」
にしむらさんはタバコが好きだった。わたしはにしむらさんのタバコのにおいが好きだった。にしむらさんは、タバコの空箱をわたしにくれたので、わたしはその空箱を庭に隠した。翌年の夏、空箱を隠した場所から、一本のひまわりが咲いた。
わたしはにしむらさんのにおいをよく憶えていたので、その夏の日も、にしむらさんがきれいなブロンド髪のおねえさんと夜の公園でキスしていたのを見逃さなかった。わたしのまっくろな髪とは正反対の、黄金色の髪。
わたしが大きな声を出してにしむらさんにとびつくと、ブロンドおねえさんは、ひゃあと言ってびっくりしてしりもちをついた。にしむらさんもひどく驚いた顔をしたけれど、すぐににっこりして、わたしの頭をぽんぽんとなでた。
夜の公園で、にしむらさんとブロンドおねえさんとわたしは、ベンチに座って、夏の好きなところの話をした。ブロンドおねえさんは、外人みたいな顔をしているけれど、とても流暢な日本語で、ビキニが着られるところがすてきね、と言って、いやらしく笑った。にしむらさんも、それはすてきだ、と言うので、わたしはちょっとむすっとした。わたしもこの夏はビキニを着ようかしら。
にしむらさんは、夏といったらやっぱり線香花火だね、と言った。にしむらさんと線香花火という組み合わせは、わたしとにしむらさんぐらい、お似合いな組み合わせだとおもう。
わたしが夏にたのしみなのは、部屋でパンツ一丁になってぐうたらしているにしむらさんを見ることなのだけど、このことは内緒にしておいた。
しばらく公園でそんな話をして、ブロンドおねえさんの、もう三時だわ、という言葉で、わたしたちは帰ることにした。
ブロンドおねえさんは、歩きながらにしむらさんの腰に手をまわしたので、わたしも負けじと、にしむらさんの細長い指にキスをした。にしむらさんは困った顔をしてから、ふたりのおでこにキスをする。丑三つ時に、三人でけらけら笑った。ブロンドおねえさんは酔っぱらっているみたいにふらふらして、さっきにしむらさんがキスをしたわたしのおでこに、つめたい唇でキスをしてきた。街灯に青白く照らされたおねえさんの笑顔は妖艶にきらきら輝いていて、すごく、にしむらさんとお似合いだと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます