心が映るまで

仁志隆生

前編

 むかしむかし、ある村のお寺に全然怖くないオバケがいました。

 というのもこのオバケはまんまるな体に愛嬌のある顔で見た目が怖くなく、そして人を驚かせることはちっともしません。それに子供達と仲良く遊んでいたのもあって村の皆から好かれていました。

 

 ある日の事です。

 オバケがお寺の境内でいつものように子供達と遊んでいるところへ、出かけていた和尚さんが10歳位の可愛らしい少女を連れて帰ってきました。

 子供達は和尚さんに「その子は誰?」「村の子じゃないよね?」など口々に尋ねました。

「すまんの。ちっと疲れとるんでお話はまた明日にな」

 和尚さんは子供達にそう言うと少女を連れてお寺の中に入って行きました。

「なんだろあの子?」

「ねえ幽太郎、あの子って悪い子じゃないよね?」

 子供の一人がオバケに尋ねましたが返事がありませんでした。

 それとこのオバケは幽太郎というそうです。

「あれ? どうしたの、幽太郎にはわかるんでしょ?」

 子供が不思議そうにしていると

「・・・・・・ん? あ、ちゃんと見てなかった」

 幽太郎はそう言いました。

「え~? じゃあちゃんと見た時に教えてね」

「・・・・・・うん。あ、もう夕方だよ。皆早くお家に帰りなよ」

「うん。じゃあまた明日ね~」

 子供達はそれぞれの家に帰っていきました。


 その夜の事です。

 幽太郎は和尚さんの部屋に呼ばれました。

 部屋に入るとそこには和尚さんと少女がいましたが、少女は布団に入って寝ていました。

「和尚さん、何の用?」

「幽太郎、お前さんはこの子の心を見たかの?」

 和尚さんは真剣な表情でそう言いました。

「・・・・・・ううん、見えなかった」

 実はさっき幽太郎は少女の心を見ようとしていました。

 というのも幽太郎には人の心を自分の体に映し出すという不思議な力がありました。だから悪い心を持ったものには幽太郎の姿は恐ろしいものに見えるのです。それで以前野盗を追っ払った事もありました。

「なんと、お前さんでも見えんのか?」

「うん、オイラもこんなの初めてだ。ねえ和尚さん、あの子はいったい?」

「儂にもわからんのじゃ、なんせ一言も話してくれんからのう」

「え? そうなの?」

「そうなんじゃ。実はな」

 和尚さんが言うにはこの少女は山の中で行き倒れになっていたのを隣村にあるお寺の和尚さんが介抱して面倒を見ていたそうです。

 ただ少女は何を聞いても何も話してくれないので隣村の和尚さんがどうしようか、と考えた時に幽太郎の事を思い出して彼ならもしや、と思い和尚さんに相談して少女を預けたのですが・・・・・・

「おそらくじゃがこの子は何かで心が深く傷ついたのじゃろう。喋る事もできんくらいにのう」

 和尚さんは寝ている少女を見つめながら言いました。

「もしそうだとすると相当深く傷ついてるね。オイラさ、この村に住む前に何人も心が傷ついた人見たことあるけどね、皆ほんの少しは見えたよ」

 幽太郎はどうやら昔はあちこちと旅をしていたようです。

「そうじゃったか。・・・・・・さて、どうしたもんかのう」

「ねえ、村の子供達と遊ばせて仲良くなれば喋ってくれるんじゃない?」

 幽太郎が和尚さんに言いました。ですが

「それは隣村でもやってたそうじゃが・・・・・・どうじゃろな?」

「うーん、とにかくやってみようよ」


 そして翌日、和尚さんと幽太郎は村の子供達に少女と一緒に遊んでくれるように頼みました。

 最初のうちは子供達も少女と一緒に遊ぼうとしましたが、何を言っても返事がないのでつまらない、と言って皆少女から離れていきました。

「だめじゃったか・・・・・・どうしたもんかのう」

 和尚さんが考え込んでいると幽太郎がこう言いました。

「ねえ和尚さん、オイラあの子を連れて旅に出ていい?」

「ん? 何故じゃ?」

「和尚さんも知ってるだろ、この国には綺麗な景色や珍しいものがたくさんあるのをさ。だから」

「なるほど。それらを見せて周ればどれか一つくらいは興味を持って心を開いてくれるかも、という事じゃな?」

「うん。いいかな?」

「いいとも。いや、頼むぞ幽太郎」

「任せといて」


 それから幽太郎は少女に「オイラと一緒に旅に出よ」と言うと少女は小さく頷きました。

 幽太郎はもし少女が嫌がったら違う方法考えなきゃ、と思ってたので安心しました。


 そして幽太郎と少女はあちこちと周る旅に出ました。

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