Retrospect 7

= retrospect 7 =


小さなビル。各階ワンフロアーの3階建て。

1階は喫茶店だったらしい。2階に集会所、3階はレンタルスペースだったって自治会長はおっしゃっていた。

入る時は、必ずヘルメットを被るように社長に言われている。前回下見にきたときは、ヘルメットがないから入らせてもらえなかった。今日は入口の近くの棚にふたつ用意してくださっている。どんなに荒れてるんだろう。古い鍵は商店街の自治会から私が預かっている、もう誰も入らないからって。

1階のスペースには梯子とか、脚立なんかが置いてある。

電気が切れているから懐中電灯を持って、ヘルメットを被って2階へ。

ここは天井が低い。なんかいろんな物が積んである。キャビネットやデスクもそのまま放置されてる。倉庫みたい。片付けるところから始めないと。

部屋の奥にある窓の方に近づく。

壊れたブラインドの間から外を見る。窓のすぐそこに大きな木!

今すぐこの窓を綺麗にしたい。

部屋の角にある掃除用具入れに行ってみる。雑巾あった。いったん外に出て2件隣のクリーニング店でバケツに水をもらって戻った。


雑巾もバケツの水も真っ黒になったけど窓は綺麗になった。

SHINの部屋の窓を拭いた時のことを思い出す。私はあの窓を何回拭いたっけ。

乾いた雑巾がないから、持っていたハンカチであの頃みたいに息をかけて拭いた。古い窓が透明であったことを思い出してくれたみたい。

そこに立って窓の外の木を見た。

手を伸ばせば届きそうだ。

固くなった鍵を開けようとしていた時に携帯がなった。離れたところに置いていた鞄に戻る。

元若造くんだ。ヘルメットを外して出る。

「どうしたの?」

『大下さん!大変です!今になって出店キャンセルしたいって言ってきました!』

あっちの仕事。かなり焦ってるね。落ち着いて。

「どこ?」

『C区3です!リネンの店の予定だった。』

一番人気で抽選になった場所だ。

「・・大丈夫。A区5で予定だったカフェの責任者、青木くんだっけ。彼にすぐに連絡取って。C ー3第一希望だった。それでチェンジするかどうか今日中に返事ほしいって伝えて。平行してWEBチームに連絡。緊急募集入れる準備してもらって。Cー3バージョンとAー5バージョンの二本考えといてって。青木くんの返事聞いて、明日の朝一でどっちかUP。イベントのHPと、うちのHPの両方に載せてって言っといて。あわてない。大丈夫。」

元若造くんは、ハイ、ハイと正しい返事をしている。最後に

『まったく、今になってですよね!』

と語気を荒めた。ちょっとおかしくなる。

「そういうこと言わない。なんかあったんだよ。どうしようもないこと。あの子達の出店コンセプトのプレゼン、一生懸命だったじゃない。大丈夫。あそこ、カフェの方が人動きやすいかもよ。」

『そうですね!わかりました!』

立ち直り早い。おかしい。

アクシデントはある。仕事にも、人生にも。


電話をきってもう一度窓へ。

そのまま窓の外の木を見ていた。固くなった鍵を開けて窓を開くと、風と一緒に枝葉の擦れあう音が。

何年たっても一緒。変わらない。私の心のオルゴールはallelujahを奏でる。リリックテノールを甦らせる。

そのまま少し埃混じりの風を感じていた。

帰ったらDVDを見よう。SHINに会おう。


何が起こったのかわからない。

なんかゴーって音がした気もする。

いきなりの揺れ。地震?大きい。さっき無理矢理あげたブラインドが私の上に落ちてきた。それから。

それから先はわからない。いろんな物が降ってきた。何かわからない。何が起こっているのかもわからない。とにかくいろんなものが。

何かが多分、頭に当たった。

ヘルメット、やっぱり被っておけばよかった。

その後は、わからない。

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