Retrospect 1

= retrospect 1 =


SHELLYがない、Noonもない、ゴリもカバもいない。

そして私たちの部屋もない。

何よりもSHINがいない。

そんな大阪にいる理由はなかった。

正直、まだ戸惑いはくすぶり続けている。

でもじっとしていたら、何かに飲み込まれふそうな気持ちになる。

あの日から3日後、私は仙台の佐々田部長にメールを送った。雇ってもらえないかと。

2分後に返事がきた。『すぐ来い!』嬉しかった。


あれから9か月が経つ。仙台は過ごしやすい街だ。あちこちに緑が溢れていた。

9か月間、何度も風と木々のハーモニーに救われながら働いていた。

佐々田社長は仙台を拠点に東北の行政関係の仕事から、関東の仕事と手広く事業を拡げていた。

私は例の業界誌に取り上げてもらった、町興しのプロジェクトと同じような企画に今は取り組んでいる。

もうすぐSHINの誕生日だ。彼は32歳になる。

相変わらず連絡はない。

仕事でもプライベートでも違う携帯を使っている。でもネイビーブルーの携帯は必ず持ち歩いている。PCのアドレスも変えてはいない。

いつでも連絡してきてくれていいよ。

待っているよ。

仕事中はポケットの中に、お風呂に入るときはジッパー付きのビニール袋に入れて、携帯は肌身離さず。

でも9か月間鳴ったことはない。

私が仙台にいることをなんとか伝えたい。

でもその術は私にはない。このネイビーブルーだけが頼り。

彼の誕生日の頃、台湾で取り組んでいたアミューズメントパークがOPENする。

OPENの日は必ず来てほしいと、山根さんと瑛琳から連絡をもらっていた。


台湾には真鍋さんも一緒に行った。山根さんに紹介をするため。

瑛琳の運転する車で空港から直接現地に。OPENの日からたくさんの人。山根さんも忙しそうで挨拶がちゃんとできたのは閉園後だった。

明日もあるのでこじんまりしたOPEN祝いの席で、ようやく山根さんと真鍋さんを繋いだ。

瑛琳に真鍋さんを紹介したら

『朋の義理と人情か?』

と聞かれたので違うと笑った。

真鍋さんの不思議そうな顔がおもしろい。

その席で山根さんから喜ぶべきなのか、せつないのかわからないことを聞いた。

『大下さんが帰国されて、ちょうど1週間後にSHINさんが来られました。あなたのことでお礼を伝えに。』

生きてた!

でもなぜ1週間後?

SHINもゴリと同じように考えてるの?

もう私の前には現れないつもりでいるの?

どうして・・。

待っていることを伝えなければ。

「どこかに行くと言っていましたか?」

『モンゴルに行くとおっしゃってました。大下さんに会いに行かないのかと聞いてしまいました。巻き込むわけにはいかないと。辛そうでしたよ。』

泣かない。

あの日、何もないけど、なにもかもがつまっているあの部屋で決めた。

待つのなら泣かないと。


27歳の誕生日は、佐々田社長はじめ会社のメンバーたちが賑やかに祝ってくれた。そのあと真鍋さんに二軒目と誘われたが断った。

まだ期待しているから。

そして期待は裏切られるものだ。


6月11日。

仕事は休まなかった。

何かがあるなら夜だと思ったから。

きっと23時。

予想どうり、ネイビーブルーが鳴った。

「SHIN。覚えていてくれてありがとう。生きていてくれてありがとう。電話くれてありがとう。約束守ってくれててありがとう。」

泣かない。言葉は何も返ってこないけれどわかる。ありがとうって言ってる。

愛してるって言ってる。

いつものように歌う。想いだけを込めて。

電話は切れない。聴いてくれてるね。

どこからかけてくれてるんだろう。

「待ってるから。あなたしかいないの、私を幸せにできるのは。あなたじゃなきゃだめなの。待ってるから。何年でも。あの白いドレスで、あの靴で、バージンロードを歩く日を待ってる。誰も祝ってくれなくてもいい。SHINがいればいい。愛してる。ずっと。最果ての地で二人だけでいい。迎えに来て。」

長い沈黙。

二人の呼吸だけが交差している。

私たちはお互い同じイメージの中で

今、kissをしている。

私はあの白いドレスで。

SHIN のヒールで。

誓いのkiss。

夢想かもしれない。

でもこの沈黙が想いの深さ。

そのまま抱いていて。イメージの中で。

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