Second memory 66

= second memory 66 =


お兄ちゃんの結納が終わってから、おばあちゃんがやたらとお見合いをさせたがる。今日はその人の写真を持ってきた。

『大学の助教授やねん。ほんまにいい人で朋に会いたいって。一回だけ会ってみて。』

いい人とかそういう問題じゃないんだよ。私は婚約者がいるんだよ。やんわりと断って部屋に戻った。

少ししたらノックしてお母さんが入ってきた。

『いい?』

コーヒーとクッキー持ってる。コーヒーはブラック。

二人でこの部屋でお茶を飲むのは久しぶりだ。今後の就職活動の話を少ししたあと、お母さんが聞いてきた。

『カメラマンの彼とはまだお付き合い続いてるの?』

頷いた。

『話したの?』

首を降った。コーヒーをスプーンでずっと混ぜていた。

『そう。もし、知っているのに何も言ってこない、同じ仕事は続けるって男性なら、別れなさいって言うつもりだった。』

「言えない。」

ブラックでコーヒーも飲めない。走れない。

言えない。言ったら傷つける。お母さんは少し息をついて、

『秘密にする話ではないと思うわよ。一緒に生きていくなら。一人で抱えることではないでしょ?』

と言ってエプロンのポケットからフレッシュを出してくれた。そしておばあちゃんから預かった写真。

『おばあちゃんがこの方にどう伝えているのかわからないけど、あなたに彼氏がいることを言ってないと思うの。おばあちゃんから頼んでるのかもしれない、三男さんらしいから。あなたがちゃんと説明してくれない?お会いして。それで、もしおばあちゃんから何か言ってたら、お詫びしてきてほしいの。』

お見合いではなくて、説明とお詫び?

確かにおばあちゃんは未だに大下の名前のことを言ってるからなあ。写真はお見合い用のものではなく、大学の中庭でおばあちゃんともう一人の先生と三人で写っていた。もちろん若い方だよね?

結局、お母さんには強くなったと思ってもらえてないよね。


SHINからのメールでは私の誕生日には帰れないらしい。記念日はどうなんだろう。

誕生日前の日曜日だからゴリとカバが今夜、誕生日会をしてくれるって言ってた。+再出発祝いだって。まだ決まってないけど。

そんな日曜日に私は写真の人に会うことになっている。

待ち合わせの喫茶店には、その人がもう来ていた。おばあちゃんの写真があるからわかった。挨拶をしてすぐに話そうと思っている。ここでさよならでいいよね。

挨拶のあと、私が話そうとしたらその人が遮った。

『わかっています。交際中の人がいるんですよね。大下先生のお話を聞いて、ぜひ一度お会いしたいとお願いしたんです。でも入って来られた時のあなたを見てわかりました。このお話は私からお断りするようにします。でも今日、6時まで付き合っていただけませんか?』

おばあちゃんが無理矢理じゃなかったんだ。

〈SHELLEY〉には7時頃の約束だから6時までならいいけど。一応、おばあちゃんが受けたお見合いだから、無下にも断れない。

「わかりました。」

それだけ答えた。

その人は映画の前売券を買っていた。助かる。映画なら話さなくていい。

軽いランチをとって映画を観た。案外、おもしろかった。映画のあと、ハーバーランドをブラブラしながら大学でのおばあちゃんの話をしたりした。

『大下先生は、学生にも人気がありますよ。うちのゼミの子たちも何人か実技とってます。』

そう言って笑った顔が、ちょっとお兄ちゃんに似ている。彼は文学部心理学科の助教授らしい。

「私の知り合いにも心理学を学んでいた人がいます。何度も助けてもらってます。」

過去形でいいのかな?カバは確か医学部系だってゴリが言ってたような。今も学んで研究してるのかな?

考えてみたら、あんなにお世話になって、あんなに助けてもらって、私のことはなんでも知ってくれているのに、私はカバのことをなんにも知らない。本名も。

聞いていいのかな?今さらだけど。

なんて聞くんだろ。今さらすぎるから。

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