Second memory 55

= second memory 55 =


SHINからメールはくる。私も送れている。

子供たちの様子に、嫌でも昔の自分が重なってしまうらしい。それは最初に思ったよ。

でも彼らにとってあなたは夢になるかもしれないよ。あなたと過ごすことで、彼らの中の一人でも、大人を信じることができるようになってくれればいいね。

私からのメールではそんな話と一緒に、今、私と大下家を取り巻いている事々についても少し書いた。帰って来ても、もうお兄ちゃんの言うことは気にしなくていいって。一緒にお母さんを説得しようって。

お母さんは私が強くなればいいんだから、私が頑張らないといけないんだけど。

とにかく早く帰ってきてほしい。

話したい。声が聞きたい。


仕事は順調。近々、また台湾に行く。

今度はあちらで山根さんとも会うことになっている。

山根さんが私のことをなぜか気に入ってくださっていることを察した部長は、この仕事の窓口を私にした。

真鍋さんは悔しいって言っていた。

ごめんなさい。

A社に入った時の後めたさを少し思い出した。


同期のお姉さんの一人は退職することになった。

営業部の先輩と結婚するとか。

今時、変な話だけどA社は社内恋愛禁止。

ゴリと部長と4人で食事に行ったときに、酔っぱらった真鍋さんが

『絶対おかしい!』

って力説してた。

「そうですよね。今時ですよね。」

って私の言葉に感動してくれてた。


SHINはいないは、〈SHELLEY〉には行けないはで私のイライラがピークになりかけていた時、ゴリから嬉しいメールが来た。

ツーちゃんが見つかったって!

関西に帰って来るって!

もう〈SHELLEY〉では働かないけど、それでもまた会える。ガールズトークできる。

まだ東京にいるらしいけど。早くその日がこないかな。素行調査も早く終われ。

またみんなで話したい。遊びたい。

約束の1ヶ月ももうすぐだから、SHINも帰ってくるはず。

ここ数日メールが来ないのはちょっと気になるけど。今回の仕事はオーナーがスポンサーではないので、ゴリからも情報は来ない。ちょっとだけ不安。


その日は部長の仕事で、京都に見積り書提出と、スケジュールの打ち合わせに行くことになっていた。

社の玄関で

『大下さん!』

と呼び止められた。同期のお姉さんの婚約者の営業さんだった。

『京都に行くんだよね?僕もちょっと頼んでいい?ダブルブッキングしちゃって。この書類、3時までに届けてくれればいいから。』

「お預かりするには、他部署間では正式に依頼書が必要ですが。」

とりあえずルールだから。

『ごめん、依頼書出しておくから。』

手を合わされたら断れないよ。お姉さんの彼氏だし、何回か一緒にランチ奢ってもらったし。

「わかりました。3時までですね?」

『うん、3時!』

部長の仕事は1時だから、大丈夫だろう。

私は彼からA4サイズのA社の封筒を預かった。

歩きながらマーケティング部に電話をする。真鍋さんが出たので、事情を話して戻るのが遅くなると伝えた。代行依頼書を預かってもらうことも。


部長の仕事が終わって会社用の携帯を見たら、真鍋さんから電話が入っている。何回も。掛けなおした。

『大下さん!3時って言ってたよね?依頼書、2時になってる!』

3時って言った。2時だったら請けてない!

あと5分、無理!

『とにかく、タクシー乗って向かって!』

真鍋さんに言われるまでもなく、タクシーに飛び乗る。行き先を告げて渋滞がないことをひたすら祈った。

ひどいよ、3時って言ったから請けたんだ!

1時から打ち合わせして、2時なんて。

タクシーの中で走りたい気持ちを抑えながら時計を見つめていた。時計の針は2時を回っている。

近づくにつれ渋滞がきつくなる。運が悪い時はこういうものだ。とうとう動かなくなった。

同じ場所で全く動かないのに信号が2回変わった。

走ろう。私はタクシーを降りた。

あと500メートルくらい。信号は同じ場所で3回目の赤。走ろうとしたのに・・走れない。

できる限りの早歩きで向かう。

走るんだ、そしたらすぐ!

でも、最後まで走れなかった。

取引先の受付についたのは2時40分だった。

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