Second memory 53

= second memory 53 =


私とSHINの一日だけの記念日は二人で過ごせた。珍しく外食をしたのは、SHINがお寿司を食べたがったから。なんとなくわかってきた。彼が和食を食べたがるときは、次を考えているとき。また行くんだね。

部屋に帰ってもう一度乾杯をする。

3回目の記念日。私が作ったケーキに、3本のロウソクを立てて二人で消した。

SHINはケーキを黙々と食べている。それもわかる。何か言いたいことがあるんだ。でも彼が話し出すまで待った。

相変わらずSHINのいれてくれる珈琲は美味しい。ブラックで飲みたいと思うけど飲めなくなっている。

SHINがいきなり立ち上がったからちょっと驚いた。いつものウエストバックから出てきたのは小さな箱。

『誕生日プレゼントで、記念日のプレゼントでいい?』

そう言って差し出す。もちろんだよ。箱の大きさでちょっと泣きそうになった。

「開けていい?」

SHINは黙って頷いた。

小さなダイヤのついた指輪。やっぱりちょっと泣きそうだよ。

『小さくてごめん。ほんとの時はもっと大きくてカッコいいのを買うから。』

そんなのいいよ。これで充分だよ。

SHINに箱を渡して左手を出した。

『サイズ、自信ないんだ。』

彼は無器用に私の左手薬指に指輪をはめてくれた。そのぎこちなさが嬉しい。

『cherry、きちんと言ったことなかったけど、きっと結婚しよう。僕の人生が終わるときは、君に手を握っていてほしい。』

わかっていたけど、その言葉を言われることはこんなにうれしいことなんだね。

もちろんだよSHIN。

「必ず、あなたが天に召されるときは、私がその手を握っていられるようにして。必ず約束して。」

指輪をはめてもらった左手でSHINの右手を握り締めた。

右手を彼の心臓の上にあてて鼓動を感じる。必ず。

私たちは二人だけで誓いのkissをする。いつもとはちょっと違った気持ちで。


『ねえ、cherry。その指輪は右手の薬指にして。ほんとにもっとかっこいいのを渡したいんだ。』

「いいよ、これで充分だよ。指輪もらえただけで、すごく幸せだよ。」

『だってこれは3回目の記念日と誕生日の分だ!』

そう、こういうとこ頑固なんだ。わかったよ。ありがとう。期待してるよ、なんとか夫人みたいなでっかいの。

「じゃあ、SHINが付け直してよ。」

彼は満足そうに私の左手の指輪をはずして、右手の薬指につけなおしてくれた。子供みたいだ。

私は指輪よりもほんとは言葉が嬉しい。『きっと結婚しよう。僕の人生が終わるときは君に手を握っていてほしい』その言葉と、少し緊張を含んだ声をオルゴールに入れたよ。

約束したよ。必ず、私のいないとこでは逝かないと。


嬉しいことのあとに辛いことがある。精神的には逆の方がいいよ。

でもきっと言い出しにくいんだよね。毎年だもんね。

どこに行くつもりなんだろう。いつ話し出すつもりなんだろう。私は心の準備をする。


SHINは眠る前に天井を見つめたまま、ようやく辛い話をしはじめる。

『チュニジアでは、ある人に密着取材をしてたんだ。僕と記者の人と二人で。そんな仕事は初めてだったけどおもしろかった。こういう仕事もしてみたいと思った。その記者の人に誘われてるんだ。モンゴルに行ってこようと思ってる。』

モンゴル。戦闘地域じゃないよね。誰かに密着取材をするの?モンゴル。

「マンホールチルドレン?」

私の言葉にSHINは驚いた顔をする。

「ウランバートルだね。どのくらい行くの?」

SHINは少し驚いた顔のまま答える。

『1ヶ月くらい。』

命の危険があるところじゃないし、ネットも繋がる。ほっとした。

『なんでわかったの?いいの?』

SHINの質問に彼の方を向きなおして答える。

「“しなければいけないコト”じゃなくて、“したいコト”を見つけたんだね。よかったね。」

大丈夫、待ってる。私もがんばりながら。

山根さんの仕事も動き始めているから。

1ヶ月なんてあっと言う間だよ。

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