Second memory 50

= second memory 50 =


イブは仕事だった。25日に〈Noon 〉に行きたいから、休日出勤をしなくていいように残業をして処理を終わった。

そのままSHINの部屋に行く。夕食はSHINが用意してくれていた。X'masケーキも。

年が開けたらSHINはチュニジアに行く。今度は1ヶ月。何をしにいくかということは、相変わらず教えてもらえない。おそらく民主化運動の関係者にでも会うんだろう。私も少しは勉強している。

SHINが珈琲を入れてくれる間にケーキの準備をする。今、私たちの間に流れている普通の時間を丁寧に楽しみたいと思っている。

伝えなければいけないことは、まだ伝えていない。自分のこともあるけど、それを知ったSHINが苦しむことが簡単に想像できるから。

おそらくお兄ちゃんに言われたことのせいで、彼は苦しんでいる。普通にしてるけどわかる。それくらいわかる。

出発前にこれ以上荷物を持たせたくない。心からそう思っていた。SHINが帰ってきたら話そう。それまでに自分の中でちゃんと整えて。

SHINが行っている間に、お兄ちゃんとももう一度ちゃんと話そう。お兄ちゃんの一番が彼女なように、私の一番はSHINであることを。お母さんにも。

カバには私の心理状態のことを相談してみよう。何があったかは言えないけど、どうすればいいとカバが思うかを聞きたい。

公園の木々が擦れる音と、お湯が沸いた音が重なる。

『ミルク入れる?』

そこにSHINのリリックテノールが加わる。

短い音楽みたいに聴こえる。

私は目の前のあなたを想う。


〈Noon〉に行くのは本当に久しぶりだった。パーティの前にグランドピアノで歌っておきたいというSHINと一緒に少し早めに入った。

SHINが練習している間、Jさんやジャズバンドの皆さんと話していた。

Jさんと二人きりになった時に

『いろいろ大変やったね。心配かけることになって申し訳ない。』

と言ってもらった。

Jさんが謝ることじゃないですよ。誰も悪くはないですよ。

『SHINの気持ちがわかったあとに、あんたもそう思ってくれたらいいなと思ってゴリに話したことがあったんや。ゴリは怒った。普通のお嬢さんを巻き込むなってな。その言葉の意味を10月にやっと理解できた。甘かったと思ったわ。』

そんなこと言わないでください。甘かったのは私だし、こうして強くなっていくこともできています。

それに何よりも私は彼に出逢って、彼と一緒に時を過ごして本当にとてもたくさんの幸せをもらっているんです。心の中に空いていた穴を埋めて貰ったんです。たった一人の人に出逢えたんです。

初恋ではない。中学の時に片想いの相手もいたし、高校で先輩と付き合ったこともある。ファーストキスの相手はその人だった。でも、これが本当の初めての恋だと思っている。焦がれる想いやjealousy、不安、心配、喪失感、ときめき、安らぎ、あらゆる初めての感情をSHINに教えてもらった。愛しいという想いも。

グランドピアノに向かって発声練習をしているSHINの姿から目が離せない。マイクを通さずに歌っている彼の声を、周りの雑音の中から聴きわける。そしてつかまえたリリックテノールに浸る。

『cherry!』

彼の声が呼んでいる。大好きなトーンで私を呼んでいる。

『歌ってよ。弾き語りで。』

カウンターの椅子を降りて、私の幸せの源へと近づく。

SHINに代わってピアノの椅子に座った。

彼に手をとられて。

すべてが始まったあの日のように。

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