Second memory 48

= second memory 48 =


X'mas前にお兄ちゃんとSHINが会うことになった。その日までに髭を剃ってほしい。お兄ちゃんより老けて見える。

久しぶりに一人で〈SHELLEY〉に行った時に、カバにそのことで文句を言った。髭は嫌いだって。

『ちゃんと本人に言ってるの?』

カバに言われて、ちょっと言ったと答える。

『あんたが言っても剃らないの?』

ゴリが新聞の向こうから聞いてくる。

「なんか、気にいってるみたい。」

ゴリはやっぱり新聞の向こうから

『そう。』

と答える。

ゴリにツーちゃんのことを聞いたら

『だいたいわかった。』

と言っただけで、詳しくは教えてくれなかった。カバも何も言わないから、それ以上まだ聞いてはいけないのかもしれない。ゴリに任せておけば大丈夫だよね。


SHINは緊張している。こんなの初めて見る。

『お兄ちゃんはそんなに怖くないよ。ラグビーしてても普通だから。』

って私の言葉も聞こえてないみたい。

喫茶店のドアを開けてお兄ちゃんが入ってきて、私が手を上げたときはSHINの心臓の音が聞こえたかと思った。

『大下 孝です。』

立ち上がったSHINにお兄ちゃんが先に言った。

『神村 真です。』

SHINはマコトって本名を名乗って頭を下げた。

SHINのドキドキが私にも移る。

お兄ちゃんは座ってコーヒーを頼んでいきなり話しだす。

『カメラマンなんですね。アフガニスタンに行ってらしたとか。それが本業ですか?』

SHINは

『はい』

とだけ答えた。

『また行くんですね、近々。イスラム圏ですか?』

えっ・・・?

『アラブ圏です。』

えっ・・?

『私は、あなたに朋を任せるつもりはありません。立派な仕事だとは思います。でもあなたがいない間にこいつに何があったか知ってますよね?こいつが辛い時に、そばにいてもやれない人に任せられません。朋のことを一番に考えられない人との付き合いを許す気はありません。考えてください。泣かすなって伝えましたよね?』

黙っていたSHINが、

『申し訳ありません。』

と頭を下げる。

『また泣かせるんですよね。こいつは心底、淋しがりやなんです。心配性なんです。』

それは私が悪いんじゃない!SHINを責めないでよ!

「そんなことない!お兄ちゃんが知ってる中学生の私とは違う!もう21だよ!社会人だよ!」

必死でSHINを守ろうと思った。

でもアラブ圏ってなに?

お兄ちゃんはため息をついて私を見た。

『この間、倒れた時のことちゃんと思い出せ。あんときの気持ちも不安も刹那さも哀しさも。背負えるんか?これからも何回も。どんな時も。」

お兄ちゃんは、私を見つめて言った。私を見るときはいつもの優しい目だった。

『時間がないので失礼します。あなたもよく考えてください。こいつを守れるかどうか。』

お兄ちゃんは言いたいことだけ言って、伝票を持って立った。運ばれてきたコーヒーには手をつけていなかった。

『はよ、帰ってこいよ。』

私に向かってそう言って、SHINに向かって頭を下げた。SHINも立ち上がって頭を下げた。

何か言い返してよ・・。

でもアラブ圏ってなに?

お兄ちゃんが帰ったあと、SHINは何も言わない。私の方も見ない。お兄ちゃんが飲まなかったコーヒーを見つめている。

たまらなくなって私から口を開いた。

「ごめんね。」

SHINもやっと私を見てくれる。

『こっちこそ、ごめん。』

何を謝ってるの?

お兄ちゃんに何も言わなかったこと?

アラブ圏に行くことを黙っていたこと?

帰ってすぐにまた行くこと? 

・・どこに行くの?

「また行くの?」

SHINを見て聞いた。

『ごめん。でも紛争地帯ではないから。チュニジアに行く予定だった先輩が行けなくなったから。代わりを頼まれたんだ。もうすぐ子供が産まれるんだけど、奥さんが入院したらしい。それに今度は1ヶ月くらいだから。』

子供が産まれる・・何も言えなくなった。


帰り道、SHINは何も言わなかった。

私も何も言えなかった。

繋いだ手をいつもよりずっと強く握りしめていてくれたことだけが救いだった。

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