Second memory 44

= second memory 44 =


そんなことは初めてだった。

ゴリから会社に電話が入った。電話を取った人に

『藪さんって方から』

って言われて、受話器を落としそうになった。保留音を聞きながらとれない。

会社にまでかけてくる要件。

不安が襲ってくる。震えてくる。

隣の席のお姉さんがちょっと不思議そうな顔をしたから、深呼吸をひとつして繋いだ。

「はい・・」

それしか言えなかった。

『帰ってくるから!』

ゴリは受話器から漏れそうな大きな声で言った。緊張が一瞬で溶ける。でも脳が驚いてる。

反射的に理解できない。じわじわと。

かえってくる・・帰ってくる・・帰ってくる!

全身の力が抜けて床に座りこんでしまった。涙が出てくる。会社なのに。仕事中なのに。隣の席のお姉さんが立ち上がった。

『大丈夫?』

小さな声で聞いてくれる。お姉さんの方を見ながら、ぶんぶんと頷いた。

「大丈夫です。大丈夫です。」

そう言いながらデスクを支えに立ち上がった。椅子に座ろうとしたけど、椅子をひくことができない。震えている。

帰ってくる!うれしすぎて震えている。

ゴリに何も言えない。電話なのに声も出せずに頷いていた。

ロッカーにある自分のPCを早く見たい。

『とりあえずそれだけ。とにかく今日、来なさい!』

ゴリはそう言うと電話を切った。

帰ってくる!


〈SHELLEY〉に向かって早歩きをしていた。

退院後まだ走れない。体力的に走れないわけではないと思う。走ってはいけない気がしてしまう。精神的に走れない?思い出してしまう。

ドアを開けかけた途端にカバがいた。開けてくれる。

『よかったわね!』

その言葉に頷きながら、涙が出てくる。

帰ってくる。

ゴリはソファから立ち上がって迎えてくれる。SHINのメールを確認していたからわかっているのに、もう一度ゴリの口から聞きたかった。

「いつ?」

『土曜!』

SHINのメールと同じ!間違いない!ゴリのところまで到達できなかった。その場でしゃがみこんだ。

あと数日で帰ってくる。約束の日より2ヶ月経って、SHINが帰ってくる!

半袖で出発したSHINを迎えに行くときは上着が必要な季節。

爆撃も終わったんだよね?


全然、練習してなかったからちょっと怖かったけど、SHINの車を運転した。

(Time after time)を口ずさんでいる。きっと私の声、元気だ。

ちゃんと空港の駐車場に停めれた。掌にボールペンで駐車番号を書いた。

飛行機が着く時間の2時間前。到着ロビーのベンチでRudrakshaを握りしめていた。

何人もの人が、その出口から姿を見せる。迎えの人が駆け寄って行く人。迎えの人に向かって走ってくる人。腰より少し高いくらいの白い柵があるからくるっと回って。

あそこからSHINも出てくる。あと少し。

4ヶ月待った私には、あと1時間なんてなんでもない。


どきどきしている。時間になった。

SHINの上着を抱きしめながら1秒でも早く顔が見れるように、到着出口に一番近い柵にしがみついて待った。もう飛行機は到着してるよね。

荷物早く出てきて。ターンテーブルの前で、きっとSHINもイライラしてる。私がもう来てることわかってるよね。柵にしがみついてるってわかってるよね。

・・・まるで別人みたいだ。髭もじゃだ。髪も私より長い。ジャンパー着てる。上着いらなかったね。痩せてる。細かったけど、もっと痩せてる。

でも真っ直ぐに。すぐに私を見つけて。

真っ直ぐに。真っ直ぐに私の方に。

柵がないみたいに。走ってきて。抱きしめてくれた。

帰ってきた。彼の首にしがみついた。

白い柵が邪魔だけど。

とにかく1秒でも早く、抱きしめてほしかったんだ。そんな気持ち、わかってくれてたんだ。

帰ってきてくれた。ちゃんと帰ってきてくれたんだ。

待っていた私のところに。帰ってきてくれた。

SHINの首にしがみついたまま言った。

小さな震える声しか出ないけれど。

涙声しか出ないけれど。

4ヶ月間一番言いたかった言葉。

「・・おかえりなさい。」

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