Second memory 42

= second memory 42 =


オフィスに入る時はドキドキした。私のデスクがなくなってたらどうしようかと。ドアの前で深呼吸してたら後ろから『おはよう!』と普通に誰かが声をかけてくれた。真鍋さんだった。

「おはようございます。いろいろご迷惑を・・」

言葉の途中で彼は私の背中を叩いて言った。

『さっ、今日もがんばろう!』

そして私の肘を持ってオフィスに入る。

『おはようございまーす!』

彼の大きな声にオフィスの人たちがこちらを向いた。

『おー、おかえり!』

皆さんがそんな風に声をかけてくれた。ホッとする。深く頭を下げてできるだけ大きな声で言った。

「ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。」

拍手をしてもらった。おかえり!ってあちこちから声をもらった。うれしい。そのまま、立ち上がってくれている課長のところに言った。お休みしてしまったことを謝ったら

『おかえり。大下さんがどんなに頑張っていたかはみんな知ってる。君がいなくなっていろいろ困ったメンバーがたくさんいたからね。今度はちゃんとコントロールしながらまた頑張ってください。』

課長の言葉に涙が出そうになった。ありがとうございます。


お昼前に帰ってきた佐々田部長がランチに連れていってくれた。湯葉料理のお店だった。私のメニューからは天婦羅などの油物がはずされている。配慮に感謝する。

『とにかく体を壊さないように。それが一番だから。朋の「はい」って返事が聞こえないのは淋しかったし、君の集計と分析がどれほど私の仕事を支えていてくれたかよくわかった。君がいない間も、何度も君を呼んでしまって真鍋に叱られたよ。それだけこきつかってたんだってね。』

部長は笑って言った。

「お見舞いに来ていただいて、家や藪さんにも連絡をしていただいてありがとうございました。」

座布団から降りて頭を下げた。

『もう倒れないでください。私と私の仕事が困る。』

そう言って笑ってくださった。


その日はもちろん定時に帰って〈SHELLEY〉に行った。カバが泣きながら抱きしめてくれた。

『今のところ、静かな状態みたい。状況を知りたい?』

ゴリに言われて頷いた。テロ組織と犯人は絞れている。家では新聞をお母さんが持って行くみたいで読めていないけれど、ざっくりとした内容はNEWSで見ている。覚悟はできてるはず。

『復帰したばかりのあんたに、きついことだと思うけど、いきなりよりも一緒に覚悟をしながら、情勢の変化に向き合いましょう。』

カバが隣で手を握ってくれながらの状態でゴリから聞いた話は、とても一人では受け止められない内容だった。ゴリの言った可能性がゼロになってください。

その日はゴリが車で西宮の家の近くまで送ってくれた。途中でSHINの部屋に寄ってDVDを持った。そして私の部屋からは、くまのSHINとRudrakshaを持って。

誰にどんなに祈っても、その日は来てしまったのだけれど。


ほぼ世界中が、アフガニスタンに向かって攻撃をしかける。子供の頃に見たキラキラした爆弾が降る様子がどうしても思い出される。そしてその下には、人がいる。加害者もまったく関係のない人も。私の大切な人も。受け止められるはずがない。祈るしかない。1日でも1秒でも早く終わってくれることを。ただ祈るしかできない。

祈るために倒れない。この状況を一瞬たりとも聞きもらさないために、絶対にもう倒れない。

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