Second memory 27

= second memory 27 =


夜が明けたのかもしれない。出発前にSHINが閉めたままのカーテンの隙間から、陽が差してきている。

昨日、SHINのDVDを見た。見てる途中でPCの電源が切れそうになって、SHIN の部屋のプレイヤーでTV の画面で観た。何回も何回も観た。

SHINのパジャマを握りしめている。ずっと抱きしめている。

TV の画面は砂の嵐。眠ってしまったのかな床の上で。

SHINは今はどこにいるんだろう。メール!あわてて立ち上がってPCを開ける。あのメールが最後。SHINのPCも立ち上げる。

そこには、何もなかった。

出発前にあれほどメールのやり取りをしていたのに、すべて消去されている。

なぜ?言い様のない不安が再び襲ってくる。

もう一度、SHINのDVDをつけた。

『cherry、泣いてる?』

少しせつなげにSHINが語りかけてくる。

ー 泣いてるよ ー

左手に握りしめていたSHINのパジャマをもう一度抱きしめた。彼の香りがする。DVDから語りかけてくる彼の顔が霞んでくる。

映像の最後に〈Noon〉 のグランドピアノで歌うSHINの(allelujah) が録音されていた。あの日と同じ音。声。

すべてのメールが消されていたから、SHINが普通の生活とは違うところに行ったことを、あらためて感じる。

夕べから何回も繰り返して聴いているSHINの(allelujah)を聞きながら意識がなくなっていく。また眠るのかな、私。


SHINのDVDを見ては倒れるように眠ってしまう。そんなことを繰り返している。砂の嵐の画面を見ながら、またDVDを再生した。何回目かな。でも何回も途中で眠ってしまうから。

今、何時なんだろう。今日は火曜日なのかな。わからない。でもDVDを見続けた。(allelujah )を聞き続けた。

終わったらまた最初から再生して。

パジャマを抱きしめて。

泣いているのかどうかわからない。

昨日、ここに来たのは何時だったのかな。それから私は何をしたのかな。また意識が遠くなっていく。

その時、インターフォンが鳴った。誰?SHINなら鍵を持っているはず。でももしかしたら・・。ありえないことを考えながら、のろのろとインターフォンを見に行った。

小さな画面を確認する前に、ドアがドンドンと叩かれた。

『いるんでしょ!』

ゴリ?どうしたんだろ。鍵を開ける。いつものゴリが飛び込んできた。

『なんでいるのよ?ここには来るなって言ったでしょ!』

ゴリは怒鳴るように言うと、カーテンを開けてベランダに出て公園の方に叫んだ。

『カバー、ここにいたから!』

どうしたの?

『あんた、今何時かわかってるの?昼頃からずっと心配してたのよ!カバも。電話にはでないし!』

今日〈SHELLEY〉に行くように言われてた。でもそれは今日?

『何時かわかってるの?』

ゴリに怒鳴られているときにカバが入ってきた。

『ゴリ、いいから。』

カバがそう言うと側に座ってくれた。

『何か食べた?大丈夫。』

カバの手が肩に置かれたとき、体の中に残っていた最後の涙が溢れてきた。

『全部出しちゃっていいから、声出して泣いていいから。私が受け止めてあげるから。』

カバの胸に顔をうずめて泣きながら、本当は行かないでほしかったんだと繰り返していた。SHINのパジャマは握り締めたままで。

ゴリはさっきから冷蔵庫の周りをウロウロしながら、中の物をテーブルに出した。何してるの?

いろんなものを流しに捨てている。

何をするの?!ミルクもトマトジュースも、昨日SHINと作ったシチューまで。

「それは私が食べることになってた!」

叫ぶように言ったのに。しかもSHINの大好きな珈琲まで捨てた。

『2ヶ月も置いたら、まずくなるでしょ。』

ゴリを止めに行きたいのに、カバが抱きしめて離してくれない。なんで?なんでそんなことするの?

二人でなんで?

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