Second memory 24
= second memory 24 =
ヒールの靴で、これほどの全力疾走をしたのは2回目。展望デッキに出た時はやっぱり息が切れていたけれど、とにかくSHINの飛行機を探す。
あれだ!あの窓のどこかにSHINがいる。
展望デッキから飛行機が見えなくなるまで見送るって約束したから、デッキの方を見ているかもしれない。ただデッキの手摺にしがみついて手を降り続けた。
機体がゆっくりと動きだす。機体の動く方に移動しながらもっと大きく手を降った。
ゆっくりと動いていた機体が滑走に入る。
そしてtakeoff。
宙に浮いた機体はあっという間に空に昇った。ゆっくりと大きく旋回しながらどんどん小さくなる。
すぐに豆粒みたいになって雲の中に吸い込まれた。
私はその場に座り込んでしまった。
点になった機体が見えなくなるのと同時に涙が溢れてくる。
そしてあれほど我慢し続けた言葉が唇からこぼれた。イカナイデ。
そこからは止められなかった。
体中に詰まっていたその言葉が叫びになるのを止められずに声にしていた。
イカナイデ イカナイデ イカナイデ イカナイデ イカナイデ イカナイデ イカナイデ! イカナイデ!! イカナイデ!!! イカナイデ!!!!!
地面に座り込んで泣き叫ぶ私は、どんなに危ない人間に見えていただろう。
でも何も考えられなかった。
何も見えなかった。
行かないで。
雨が降ったみたいだ。
SHINの乗った飛行機を飲み込んだ、あの雲が降らせたのかもしれない。
でももうやんでいる。私とウッドデッキが濡れている。
しばらく動けなかった。
自分がこんなになるとは思っていなかった。
叫び続けたのに、まだあの言葉は体の奥の方に残っている。
ふと掌を見たときに、また涙が溢れてきた。
〈H5 〉SHINが書いた文字。最後の数字は掌を強く握りしめていたせいか、雨のせいか滲んでわからなくなっていた。
帰らないと。SHINのバンをマンションの駐車場に戻すまでが今日の私の使命。
どうにか立ち上がった。
どうしよう、私、びしょ濡れだ。車のシートが濡れちゃう。彼の大切な車。どうしよう。そうだビニールシートがある。あれをひいて座ろう。
髪からも服からも雨がしたたっている。でも私はそのままふらふらと、ターミナルビルの中を歩いて駐車場に向かった。
どこに停めたっけ。SHINが書いてくれたH5をぼんやりと探した。
どこを歩いたっけ。SHINの荷物ばかり見てたから風景もわからない。Hがどっちかもわからなかった。
何度も迷いながら、ようやくHにたどり着いた私は、そのあとすぐにSHINのバンを見つけることができた。
掌の数字はわからなかったけれど、車の横に人影があったから。
180センチの長髪のごっついスーツ姿があったから。
それがSHIN のバンだね。ゴリ。
『遅いわよ!しかもあんたびしょ濡れじゃない!』
ゴリはそう言うと私のバックをとって車のキーを出した。バンの後ろを開けてビニールシートを出すと助手席に敷く。そんなことまで知ってるの?
ハンカチで私の髪を拭いて、雫が落ちているスカートを絞ってくれた。
私に自分の上着をかけてくれて、ビニールシートを敷いた助手席に座らせて自分は運転席に座った。
『アルマーニ着てこなくて良かったわ。』
いつもみたいにそう言うと、私の頭を小突いた。
「私が運転する。私の使命だから。」
そう言った私の頭をまた小突いて言った。
『傘させてから言いなさい。今のあんたの運転する車なんて、死んでも乗りたくないわよ!』
「SHINも乗ってくれないの?」
ゴリは大きなため息をついて、助手席の私のシートベルトをかけてエンジンをかけた。
そう聞こえたもん。
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