Second memory 25
= second memory 25 =
車の中で何も話さなかった。ただ窓の外を見ていた。流れていく景色を見ているわけでもない。ゴリも何も話さなかった。
自分がこんな風になるなんて想像していなかった。全身に力が入らない。ゴリがいなかったら運転できたのかな。
沈黙が辛いわけではなかったけれど、窓の外を流れる風景の色だけを感じながら(time after time )を口ずさんでいた。SHINが好きだったって言ってくれた歌。おそらく待ってるって歌詞の意味に気を使ってそれを言わなかった歌。でも最後に歌ってほしいって言ってくれた歌。
あの夜、私が歌ったから、今日好きだったことを教えてくれたのかな。もしあの夜、歌ってなかったら・・。
何気なく思ったり、何気なくしていることが未来の何かに少しづつ繋がっているのかもしれない。自分のまったく知らないところで。
じゃあ、今の私はどこに繋がるんだろう。どんな風に。
唇だけで歌いながら、何かを考えていないと思考回路が停止するだろうことはわかっていた。
ゴリはSHINのマンションには行かずに、まっすぐ私のマンションに向かった。なんとか自分の足で車を降りることはできた。
頭の中では(time after time ) が流れている。なぜかはわからないけど、ずっと。ただゴリがいるから口からは歌が出ないようにはできている。
ゴリに肘を持たれながら歩く。SHINのバンのハザードランプがついていることもわかる。涙は出ていないこともわかっている。
私の鞄からキーホルダーを出したゴリが、鍵を開けて中に入った。長い間、換気していない部屋の匂いがする。SHINの部屋も時々窓を開けに行かないと。ゴリはバスルームに行ってお風呂を入れている。
『とにかくお風呂入って着替えなさい。ちゃんと頭も乾かすのよ。それから酒飲んで寝なさい。今日は夕食なんて食べれないだろうから。明日は朝起きたら、とにかくまっすぐSHELLEYに来なさい。昼まで寝るならそれでもいいから。いつ来てもいいから。会社は明後日まで休みでしょ?奢ってあげるから、営業時間も遊んでいけばいいわよ。いい?風呂入って寝るのよ。SHINの家には行ってはだめだからね。車は私が返しておくから。』
黙って頷いた。でも「はい」って意味ではない気がする。ゴリはまたため息をついた。
『カバの予想を上回るわ。』
そうだ、Rudrakshaのお礼。
「ゴリ、Rudrakshaありがとう。お店に取りに行ってくれたんだね。私気づかなかった。」
『ボーっとしてるからよ!』
ゴリは私の方は見ずに、靴を履きながら続ける。
『鍵かけなさいよ!』
車のハザードを点けたままだから、ゴリはそのまま帰っていった。
お風呂はまだはれていないけど服を着がえた。濡れてたから。えぇと次はなにをするんだっけ。
あっ、ドアの鍵閉めずに着がえちゃった。SHINが知ったら怒るな。そう思いながらドアに近づく。
ふと見るとドアポストに何かが入っている。開けてみるとDVDが一枚入っていた。
出してみると『cherry』ってSHINの字!
パソコン・・。SHINの部屋に置いてきちゃってる。
お風呂のお湯だけを止めて、鞄とDVDを持って今日2回目の全力疾走をする。
さっきまで、あんなにふらふらしてたのに、どこにこんな力が残ってたんだろう、私の足。
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