Second memory 11

= second memory 11 =


私たちはそのまま黙っていた。SHINが肩を抱いてくれるから私は彼に寄りかかって。

淡々と繰り返される波の音だけを聞いていたら、ちょっと離れた場所から小さな子供の声が聞こえた。ほとんど同時に振り返る。

3人の親子連れ。2歳くらいのちびっことお父さんとお母さん。お母さんはSHINくらいじゃない?

『・・いつかあんな風にここに来れたらいいね。』

SHINが少し微笑みながら言った。ちゃんと目を見て言ってくれた。たった今、同じことを私も考えたよ。

『cherryによく似た雛ちゃんと三人で。』

私は一人目はSHINによく似た男の子がいいなあ、顔も性格も声も。それから二人目に雛ちゃん。その時にふと思った。

「SHIN、お兄ちゃんに会ってほしい。」

SHINはちょっとびっくりした顔をしたあと、すごく緊張した顔になった。

『うん。・・何回か泣かせたよね?殺されるかもしれないよね?』

覚えてたんだ。あれ、どうなったんだろ?引き出しにまだあるのかな?

「お兄ちゃんには言ってないよ。」

それに私が一人で勝手に泣いてたんだから。全部、最初からわかっていたことで。今だってそうだ。

もうすぐ学校は定期試験があるから、その前は部活が休みになると思う。そこで。SHINの出発の前に。

SHINの仕事のこととかは、事前に言っておいた方がいいよね。絶対反対されるから、上手に言わないと。部活のスケジュールを確認しておこう。

SHINは既に緊張した顔をしている。

『孝さんっていくつだっけ?』

「SHINよりひとつ上かな?」

『高校の先生だよね?』

「うん。先生でラグビー部の顧問してる。お兄ちゃんもずっとラグビーしてたんだ。大学まで。」

『お兄さんってcherryのことをすごく大事に思ってるよね?彼氏とかほんとは許せないタイプだよね?』

「うん。すごーくそう思ってくれてると思う。彼氏はどうかな?」

固まっていくSHINの表情がおもしろい。ちょっと意地悪な気持ちになる。

「ねえSHIN 、お兄ちゃんには私が今まで泣いたこと言わないから、帰りはアシストグリップ持たないで。」

SHINはさっきの親子連れが驚くくらいの声で

『えーっ!!』

って叫んだ。

私は笑いながら違うことを考えてしまった。

(もし子供がいても、あなたは行くのかな?)

そしてそれを飲みこんだ。


6月になってから、私は毎日、SHINの部屋に帰っている。

相変わらず毎日残業をしているし、夜中まで資料を読んでいることもあるけど、そんな時はテーブルの端っこで一人で読めるように小さなスタンドを買った。一緒にいれる時間はできるだけ一緒にいたかった。

あの時、SHINは咄嗟に言ったから。私の誕生日まではいるって。それに前よりもよくパソコンを見ている。

何か決まったらきっと言ってくれるから、私の方からは聞かないでいようと思っている。

できるだけ忘れていよう。一緒にいる時間を楽しむことだけ考えていよう。特別なことはせずに、いつもと同じように。淡々と。

SHINは毎朝起きてくれた。そして一緒に朝ごはんを食べる。玄関を出るときには

『いってらっしゃい』

って言ってくれる。その言葉に一日の元気をもらっている気がする。

私もその時が来たら「いってらっしゃい」って言おう。ちゃんと笑顔で言おう。

SHINが元気に出かけられるように。

「おかえりなさい」って言うために言おう。


私の耳には、数日前から涙型のピアスが光っている。Rudrakshaはまだこない。

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