Second memory 8

= second memory 8 =


考えたら、人の髪なんか洗ったことない。

シャンプーが目に入らないように、頭に爪をたてないようにそっとそっとSHINの髪を洗う。これであってるのかな?これも初めてだよ。

「気持ちいい?」

背中越しだから、SHINがどんな顔してるかわからない。

『うん・・誰かに頭洗ってもらうなんて初めてだ。気持ちいい。』

「美容院、行かないの?」

『行ったことない。』

ないんだ。

『最近はカットも自分でするし。便利な櫛みたいなので。』

SHINは本当に無駄遣いをしないんだね。でも上手だよ、カット。

洗ってるのか、彼の髪で遊んでるのかわからないみたいになりながら、ふいに思った。

それは口にしない方がいいことかもしれないとも思ったけど、伝えたくなった。

「・・SHIN、髪を洗ってもらうのはきっと初めてじゃないよ。赤ちゃんは自分で髪を洗えないもん。」

私はいくつくらいから一人でお風呂に入れたんだろう。自分の髪を自分で洗えたんだろう。

「SHINは覚えてないかもしれないけど、きっとSHINのお母さんもSHINの髪を洗ってくれたよ。」

あなたの目にシャンプーが入らないように。ちょっと怖いって思いながら。

「カバが言ってた。人の性格は3歳頃に大人から受けた影響で決まるって。SHINはとっても優しい。私にも、写真に写っていた子供たちにも。きっと優しくしてもらってたんだよ。」

働きだして思う。もし働きながら子供を育てるってなったら、どんなに大変だろう。それもSHINのお母さんは一人だったんだ。

「私が哀しいとき、SHINは背中ポンポンってしてくれるけど、あのリズムはとても気持ちよくて落ち着くんだ。SHINのお母さんがきっとあのリズムで背中ポンポンしてくれてたんだよ。」

泣いてる子供の背中をポンポンして落ち着かせるのって、5・6歳までじゃないのかな。

SHINは何も言わなかった。

でもちょっと肩に力が入ってる気がする。

「流すよ。」

ゆるいシャワーでシャンプーを流しながら思った。愛されてたんだよ、きっと。

そりゃ途中で疲れてしまったのはいけないけど、まちがいなく愛されてたと思った。

働きながら赤ちゃんを育てるなんて、きっと愛してないとできないよ。

SHINの辛い記憶の奥には、素敵な記憶も隠れてるのかもしれない。うれしい記憶だけを取り出せたらどんなに幸せだろうね。

何も言わないSHIN の髪をゆっくり流しながら、背中の傷にkissをする。

シャンプーが傷の上を流れていく。

去年の夏、みみずばれみたいになってた傷は少し色を変えてもう腫れてはいない。

SHINの髪にコンディショナーをそっとつけて、ちょっとおいておく時間、背中から彼を抱きしめていた。


お風呂からあがって、SHINの髪を乾かす。

細い猫っ毛はすぐに乾いた。交代で私の髪を乾かしてもらう。

ドライヤーの音が止まった時に、SHINがようやく口を開いた。

『cherry ・・ありがとう・・彼女のことを、母のことを許そうと思いかけてる。もう何もできないけど。まだ完全には許せないと思うけど。』

よかった・・・何も言わないから、怒らせたかと思ったよ。

私の勝手な思い込みかもしれない。

でも、わからないことなら幸せに考えた方がいいよね。

少しだけでも、幸せを探す方がいいよね?

椅子に座っている私を背中からそっと抱きしめてくれながら、SHINはもう一度

『ありがとう』

って耳元で囁いてくれた。

そして私の耳に優しくkissしてくれる。なんだか私の気持ちも軽くなった気がする。

ありがとうって言ってくれてありがとう。

髪を乾かしてくれてありがとう。

SHINのお母さん、SHINを産んでくれて、3歳までにこんなに優しい性格の礎を作ってくれて、ありがとう。

SHIN、私を見つけてくれて、愛してくれて、ありがとう。

この世の中に存在してくれて、ありがとう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る