Second memory 5

= second memory 5 =


同期の男性は真鍋さんという人で、大学で統計学を学んでいたらしい。ゴリと一緒?

5月になって私と真鍋さんは、企画会議に出させてもらうようになった。といっても真鍋さんは会議のテーブルに着くけど、私は佐々田部長の近くでパソコンで書記をするだけ。

会議の様子は録音して、後で議事録にするのがこれまでのA社のやり方だったけど、

『時間の無駄。』

と佐々田部長が変えたらしい。すごい才能のある方だけど強引な部分もかなりある気がする。敵を作ってもしかたないのに。

でも、おかげで2時間の会議の(テープ起こし)の仕事がなくなった。会議を聞くことができるのも楽しい。真鍋さんには発言の機会が与えられるけれど私にはない。でもそれでいい。吸収するんだ、今は。


久しぶりにゴリと佐々田部長と3人で食事をしていた時に、ゴリが私に言った。

『最近、企画会議に出させてもらってるんだって?』

藪さんのゴリだから敬語で答える。

「はい。勉強になります。」

ゴリは少し笑って、佐々田部長に向かって言った。

『カラカラのスポンジでしたので、吸収は早いですか?』

佐々田部長は、笑いながら『そのとうり』と言ってくれた。そして

『そろそろ何か企画を考えてごらん。採用されるかどうかじゃなく、朋が今やりたいことの企画書を書いて私に出しなさい。』

って!そんなことさせてもらえるなんて!

『形にはならないかもしれないけれど、まちがいなく勉強にはなるだろう。君がまとめてくれている私のデータを使っていいから。』

佐々田部長の言葉にゴリは薄く笑った。

佐々田部長は、私が彼のデータを整理しながら目を通していたことを知ってくれていたんだ。

うれしい。頑張ります


私が自分の企画書を書くようになって、日曜日の過ごし方が変わった。SHIN と二人で出掛けることが、ほとんどなくなった。

二人でSHINの部屋で1日を過ごす。

SHINがピアノを奏でる。

私は古いアンティークの大きなテーブルを独り占めして、自分の小さなノートPCで企画書を書く。

SHINの部屋のPCはピアノの近くにあるから、本当はあのPCで作業してもっとSHINの近くにいたいけれど、キーボードの音がピアノの邪魔になってはいけないから。

私は時々、手を止めてピアノに向かう彼の横顔を見つめる。

今は気づいていないね。

時々、その瞬間に目が合うことがある。そして微笑みを交わす。ちょっとドキドキするよ。

目があったことも嬉しいけど、私がSHINを見つめてる見たいに、SHINも私が気づかない間に、私を見てくれてる可能性を感じてうれしくなるんだ。

SHINのピアノがとまる。テーブルを回って珈琲を入れてる。でも私がキーボードを打つ手を止めないから話しかけてはこない。大きなテーブルの端の方に座って珈琲を飲んでる。

肩肘をついてこっちを見ている視線を感じる。

私は画面から目を離さない。でも背筋は伸ばしている。

SHINの視線に耐えられなくなるところまで入力して、上書きをしてから彼を見る。ちょっと微笑んでくれる。

『珈琲、冷めるよ。飲んだら散歩に行ける?』

SHINの前に座って、彼が入れてくれた珈琲を飲む。

「うん、行こ。」

微笑んで答える。

企画書はまだ完成していない。タイムリミットもある。会社では他の仕事があるから、自分の企画書を書けるのは平日の夜と休日だけ。

もっといろんなところに行きたいよね。デートしたいよね。でもいつも待っていてくれてありがとう。見つめていてくれてありがとう。

手を繋いでゆっくりと歩く時間が、私の心の緊張をほぐしてくれる。

今日は企画書の続きを書くのはお休みしよう。

SHINと一緒に過ごす午後が、きっとまた優しいアイデアをくれる。


もうすぐ私は21歳になる。

SHINがひとつの目安にあげた、私の誕生日が近づいている。

でも今はこの時間を二人で。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る