First memory 100

= memory 100 =


SHINのピアノが胸に刺さる。

でも歌うよ。最後のリクエストだから。

大好きな曲だから。

あなたの初めてのリクエストだから。


そう戦争がなくなればいいんだ。

世界中で戦いがなくなればいいんだ。そしたら私もSHINと離れなくていいんだ。

どうしてもそんな風に考えてしまうよ。

小さいね。でも、きっとたくさんの人がそうなんだよね。

子供の頃に見た戦争は、TVゲームみたいだった。夜中に画面の中でキラキラ光ったものがいっぱい降って。考えなかったよ、あの頃、あの下に人がいることなんて。あのキラキラが命を奪うなんて。

そういうことでしょ?そういう人がいっぱいだからでしょ?だから行くんだよね?

私の想像力が、SHINと離れることだけを悲しむレベルしかないから。私たちの想像力があまりに平和すぎるから。

わかったけどやっぱり、どうしてあなたなの?他の人でも・・そしたら、私じゃない別の誰かが哀しいだけなんだね。戦いがなくならなければ。

(Imagin)を歌ってる間に、おそらく私の中に覚悟の芽が芽生えてしまっている。SHIN 、ずるいよ。

私の歌が終わると同時に、最後の声を重ねるようにSHINが歌いだした。

(Happy Christmas)

まるでバトンを渡したみたいじゃない。

あなたが行くことを世界で一番反対してる私が、あなたにバトンを渡したみたいじゃない。

ひどいよ。こんなの。


SHINは歌った。いつもより強い声で。

お客さんも静かに聴いている。いつもよりもっともっと静かに。みんなわかっているんだ。SHINが決意を持って行くことを。

吐息さえ聞こえない静寂の中に、SHINのピアノと、一瞬で私を虜にした透き通った歌声がいつもより強く、でも優しく響く。

日本でどんなに楽しいことがあっても、私との時間がどんなに楽しくてもあなたは行くんだ。

なんにも知らない、なんにも考えていない、自分の幸せしか考えることができない私たちに伝えるために。

いつもよりずっと、強く優しく響くSHINの歌声を聴きながら、私にできることは待つことだけだと思った。

スポット当たってないから泣いてもいいよね?

SHIN、私は待てばいいんだね?

一人でちゃんと立って。

淋しいのも哀しいのも我慢して。

私にはそれしかできないから。

私たちに真実を伝えることを

『それしかできない』って言うあなたを。

ふと客席の方を見ると、オーナーの横にごっつい二つの影が見えた。ライトで眩しいけど、誰だかわかったから、そこに泣きながら走って行きたい。

でも行かない。ここにいる。

ちゃんと自分の足で立ってる。

ピアノの横で見守って待ってる。  



成人式の式場にはお兄ちゃんが送ってくれる。でも途中で行き先を駅にしてもらった。私の中では最初から決まってたこと。お兄ちゃんはため息をついたけど、駅に向かってくれた。

SHINは改札で待っていた。私の振袖姿を見て写真を撮ろうとするから、ここでは止めてって笑う。

東通りを歩きながら、何回も歩いてる私の写真を撮る。隣からも前からも後ろからも。危ないよ。


SHELLEYには、ゴリもカバもツーちゃんももう来ていた。

『cherry!ステキー!!』

カバとツーちゃんのデュエット。

『馬子にも衣装よね~。』

ゴリ、それ誉め言葉じゃないよね?

SHINはなんかうろうろしてる。立っている私に椅子を持ってきたり、写真を撮ったり。

そばにいてよ。もっとちゃんと見てよ。

5人で乾杯をした。

『成人式おめでとう!』

って声を合わせて言ってくれたけど、式はさぼってるから。

私じゃないみたいな私になるのは2回目。

1回目の白いドレスはクリーニングに出して箱にしまった。白い靴もピカピカに磨いて箱にしまった。誰にも見つからないように。

SHINとの結婚式で着れたらいいな。誰にも言ってないけど。

一度小さく深呼吸をして、4人に言った。

「ゴリ、カバ、ツーちゃん、SHIN。去年の3月からいっぱいお世話になりました。みんなのおかげでCHERRYになれて勤めあげることができました。ありがとうございました。」

ちゃんと正しく頭を下げた。カバがいっぱい笑いながら

『どういたしまして。頑張ったわね。最後も素敵だったわよ。』

って言ってくれた横で

『ツーも行きたかったのにー!』

ってツーちゃんが叫んでくれた。

『仕事以外にも、お世話しまくりだったわよねぇ。それはこれからも続くんでしょ?まったく、さっさとちゃんと大人になりなさいよ。』

ゴリ!いいの?これからも来ていいの?歌の練習しなくてよくなるけど。

今日、絶対お願いしたかったこと。これからも。

『営業中に来るときは、お金払うのよ!開店前は今までどうりでいいけどね。』

って。なんて素敵なお見通し。ありがとう!

『もう一回乾杯しましょ!』

カバがワインをついで渡してくれた。

wonderlandに来れるんだ。これからも。

明日からも!

ゴリ、カバ、ツーちゃんありがとう!!

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