second memory 1

= second memory 1 =


2月の卒業の前に、ちょっと嬉しいことがあった。私の卒業制作が卒展で優秀賞に選ばれた。短大部からは一人だけだった。

もちろん〈SHELLEY〉に報告に行く。ツーちゃんは表彰状を読み上げて、ゴリとカバの前で渡してくれた。そんなの学校でもしてもらわなかったよ。

〈Noon〉で歌うことが終わってからも、私の生活はそんなには変わってはいない。学校が終わったら月曜から木曜までA社に行くだけ。

学校が終わったらすぐに行って、17時半まで資料のファイリングやコピー、電話番をするくらい。A社と〈SHELLEY〉は近いから、6時過ぎには〈SHELLEY〉に顔を出していた。

金曜は〈Noon〉に行く。3学期の金曜は1限目だけだから、〈Noon 〉の前にSHINの部屋に行くことも増えた。SHINはあんまりいなかったから、掃除をしたりご飯を作っておいたりしてから〈Noon〉に行く。私がやりたかったことができてる気がする。一緒に住んではいないけど。

A社のマーケティング部では、研修バイトの私たち以外は定時の5時半に帰る人はいない。多分、4月からは私もそうなるんだろう。

3月になったら、すぐに家を出る準備をしている。お父さんは反対したけど、お母さんは味方だった。私の部屋で話したときに、やっぱり

『してしまった後悔よりも、しなかった後悔の方が引きずる。』

って言ってた。もしかしたらお母さんは(しなかった後悔)を今も持っているのかもしれない。だけどやっぱりこのまま同棲はだめだって。

『ちゃんと家賃を払って、光熱費を払って、家事をして、買い物をして、食事を作ってという生活をしなさい。仕事をするということは、そういう人たちがお客さんなんだから。特にあなたの選んだ仕事はそういうことをわかって考えるべきでしょ?』

って。そう言われればそうだ。でももう大丈夫だよ。ちゃんと一人で立つから。その決心はX'masにできたから。


本当に瀧元オーナーに紹介してもらった不動産屋さんで、ちゃんとマンションを探している。SHINと一緒に。4月から入居できる物件で。

いろいろあるんだけど、SHINがダメだって言う。

SHINの条件は、まず建物の入口がオートロック、3階以上、近くに駐車場とか空地がないこと、駅からの道にちゃんと電灯がいっぱいあって明るいこと、細い路地とかを通らないこと、コンビニが近いこと、SHINの部屋から徒歩10分圏内、両隣が男性でないこと・・・。

そんな物件ないよ。

だいたい隣人が女性でも引っ越して変わるかもしれないじゃない。でも

『cherryの安全のためには、これは絶対条件だから!この条件で決まるまではいつまでだって探す!』

って。意外と頑固だったんだ。

ゴリもカバも呆れてる。

『おまえはお父さんか。』

って。でも私はそれでいい。そんなとんでもない条件の部屋が見つかるまではSHINはきっと行かないし、その間は一緒にいれる。

私の安全のためにも、SHINの安全のためにも妥協しないで。がんばれSHIN !


日曜日はSHINのリクエストで、動物園や水族館に行く。お弁当を持って。

私の作るもののなかで、SHINはおにぎりが一番好きらしい。ご飯は炊飯器が炊いてくれるんですけどってむくれたら、握り方らしい。

『子供の頃、ママが握ってくれたんだけど固いんだよね、やっぱ男だから。カバにも作ってもらったことあるし、自分でも作ったけどおにぎりって固いものだと思ってた。cherryのおにぎりは、中が柔らかいんだ。でも外はきっちりしてるから、食べてて崩れないでしょ?天才だよね。』

って嬉しそうに食べてくれるから、まあいいけど。正直、他の料理はSHINの方がうまい。

SHINは動物園でも水族館でも、仕事用の写真を撮ってる。

その仕事は、行く仕事だよね。現地の子供たちに見せてあげるんでしょ?象やキリンやコアラ、マンボーやジンベイザメ。彼らが見たことのない動物を見せて話してあげるためでしょ?

SHINは何も言わないけど、私にはわかる。準備はしてるんだよね、私の部屋は見つからないけど。

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