First memory 97
= memory 97 =
自分の胸にしがみついて、だだっ子みたいに、イヤだ、ここに住む、探さないからって繰り返している私を抱き締めながら、SHINはどんな顔をしてたんだろう。そのままずっと私が催眠術にかかるまで、背中をぽんぽんしながら、落ち着かせる言葉をつぶやいてくれていた。中に時々わかんない言葉が入ってた。フランス語?催眠術の呪文だったのかもしれない。
私の頭の上に顎をのせたまま、SHINはゆっくりと小さな声で話し続ける。
『僕が心配になるから。だから僕のためにもそうして。でもcherryがここに泊まりたければ、いつだって泊まればいいよ。僕がいてもいなくても。だけどその時は戸締まりを気をつけて。公園の木は登ろうと思ったら登れるから。鍵は二重ロックにしとくね。この部屋は外から見て、いつ電気がついたとかわかりやすい場所だし2階だから。cherryの部屋はもっと上の階で探そう。狭くてもいいから安全なcherryのお城。風が吹いてもここみたいに音がうるさくない場所で。cherryがゆっくり眠れる場所。cherryが毎日ここに帰ってきて、それを知らせるように電気がつくことは危険だから。ここは女の子一人には向かない立地だから。』
SHINの声は子守唄みたいだ。静かなトーンで囁くみたいに言うから。
でも違う。どうして私が一人になる前提で話してるの?SHINに背中をぽんぽんしてもらいながら言った。胸に顔を埋めたままで泣きながら。
「・・どうして行くの?」
SHINは抱き締める力を少し強めて答えた。
『それしかできないから。託されたから。』
それしかって?託されたって誰に?辞めることできないの?私を置いていくの?社会人になって辛いときは支えてくれるって言ったじゃない。
聞きたいことはたくさんある。でも、何も言えなかった。ただ泣いてるだけで。
SHINがまた囁くみたいに英語の歌を歌ってる。なんの曲か知らない。でもその歌声が心地よくて眠たくなってくる。催眠術の歌でしょ?さっきのフランス語は呪文なんでしょ?
そう言えば2日ちゃんと寝れてない。私は催眠術にかかってしまった。SHINの腕の中で眠りに堕ちる。
目が覚めたらベッドにいた。ちゃんとパジャマ着てる。
私の服がハンガーにかかっていた。SHINが着替えさせてくれたの?!それは恥ずかしいよ。
催眠術め。催眠術で眠らせても昨日のこと忘れたわけじゃないんだから。
ベッドの中で、すぐ近くにあるSHINの寝顔を見ながら、どうして行くんだろうってばかり考えてた。ケガしたのに、それも銃弾だよ。日本にいたらそんな怖い思いも痛い思いもしなくていいじゃない。
あったかいお布団で寝ることもできないんでしょ?そんな気持ち良さそうにスースー寝息たてて寝ることもできないんでしょ?
眠っているSHINの手を持って私の肩にまわした。私を抱きしめることもできないんだよ。
そのまま寝顔を見つめ続けていたら、SHINが目を覚ました。いつもは私が先に起きてるから、こんな風に起き抜けに目をあわすのって初めてだね。
そうだ、コンタクトはずすの忘れて寝ちゃったんだ。だからすごくはっきりSHINの寝起きの顔が見えるよ。
『どうしたの?おはよ?』
昨日の催眠術は失敗だからね。だって私は全部覚えてるもん。
『cherry 、コンタクト外してないでしょ。さすがにそれは怖かったから、一回外した方がいいんじゃない?』
さすがにそれはってことは、やっぱり服は着替えさせてくれたんだね。私の眼差しで気がついたみたいで、ちょっとあわてて言う。
『服のままじゃ皺になっちゃうでしょ。だからだからね。下着は脱がしてないからね。』
あわてぶりがおかしいのに笑えない。声も出ない。
『コンタクト外しておいで。目薬もちゃんとさして。で、戻ってきて。』
SHINに言われるままにコンタクトを外しにいった。昨日のことは何も言えなかった。おはようも言えなかった。催眠術にかかっているんだ。
今日は1日、SHINが着せてくれたパジャマでいたい。
コンタクトを外して、歯を磨いた。夕べの分。
冷蔵庫の中から、昨日食べなかったケーキとスプーンを持ってベッドに戻った。
『ここで食べるの?』
ベッドに座って不思議そうな顔をしてるSHINの鼻に、クリームを塗ってやる。スプーンでケーキを一口食べたあと、SHINにも食べさせた。
鼻の頭にクリームを乗せて、不思議そうな顔をしてケーキを食べながら私を見つめてくるSHINを見て、やっと今日も笑えそうだよ。
ちゃんと今日も笑えそうだよ。
ちょっと笑いながら、SHINの鼻のクリームを嘗めた。
私といる時間がいっぱい楽しければ、SHINは行かないかもしれない。私と離れるのがイヤになるかもしれない。
SHINはおかえしみたいに、私の唇にクリームを塗ってゆっくりと新しいkissをする。
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