First memory 60

= memory 60 =


〈Noon〉で歌うことになって、SHINとHappyな関係になって、私の一週間は劇的に変わった。

まず居酒屋のバイトを辞めた。

金曜日の夜はSHINといたいから。

これまでも金曜日の夜と土曜の朝にお父さんに会うことはなかったから、お父さんは知らないと思うけど、さすがにお母さんはなんか思ってるだろうなあ、ほぼ毎週の外泊。なんにも言わないけど。

おばあちゃんはお兄ちゃんちに泊まってるって信じてるみたいだし。お母さんもそう思ってるのかな?

日曜は早くから出かけるし。

私は美大の短大部に通っている。今2年。

7月中には3年次に編入するのか、就職するのか、違う学校に行くのか決めなくちゃいけない。

周りの友達はもう決めていて、就職組は先輩訪問とかしてる。

〈SHELLEY 〉で溜息ついたのは、それが理由なのにツーちゃんは絶対SHINとなにかあった方に考えたがる。

『結局、どうするのよ?来年。』

新聞を読みながらゴリが言った。

なんにも言ってないのに。

「わかんない。」

『考えようとしてないんじゃない?今が楽しいからって。流れにまかせてるんでしょ?』

図星すぎかも。進路もだけどどっちにしても、卒業制作のテーマ決めなきゃ。

ふたつのことをいっぺんに考えるの苦手。

『まずしたいことを考えてみたら?』

カバが謎のジュースを持ってきてくれる。

小さいミキサーみたいなのを買って最近はまってるみたい。

『胸が大きくなるアボカド入りだから!』

アボカド嫌いだって。でも胸大きくなりたいから飲むけど。

したいこと・・

「一人暮らし、したい。」

謎のジュースを飲みながらカバに答えた。

またゴリに怒られるかなあと思いながら。

でもゴリは怒らなかった。

『じゃ、そこから考えればいいじゃない。まず道標建てて。来年の今ごろ、どうしてたいのか。』

来年の今ごろ、わかっていることは〈Noon〉では歌っていないこと。

でもここにはいたいし、SHINとも一緒にいたい。

『だいたい想像つくけど、まずは来年の今ごろ、なっていたい自分をできるかぎりたくさん想像しなさい。・・そしてその中から、自分一人ですることを選んで。』

それは、SHINも抜きで?って思ったとたんに

『SHINも私たちも抜くのよ!』

って。声だしてないよね、私?

なっていたい自分・・考えたことない。

『でもcherry、進路のことならお父さんやお母さんにもちゃんと相談しなさいよ。大切なことなんだから。』

カバがすごく正しいことを言う。

でも大学進学のときも、自分で決めろって言われた。


今の学校を決めるとき、パンフレット持ってきてくれたのはお兄ちゃんだった。

考えてみたら〈Noon 〉で歌うことも彩さんが持ってきてくれた話だし、ゴリが教えてくれたのも、カバが(let it be)を歌ってくれたおかげだし、デビューの日のアクシデントを乗り越えたのもSHINのおかげ。自分でなにもしてない。

結局、私はいつも流れに任せてただけみたい。

今度は声に出して言っていた。

カバが隣の椅子に座りながら言う。

『でもね、決めたのはいつもあなた自身じゃない。私が(let it be)を弾いたときは、J が弾いたってくれって言ったのよ、彩のKeyだって。その時点でJ が認めてたってことだから。J に認めさせたのはcherry自身だしね。』

そんな話、知らなかった。

『だいたい、いきなりあなたのKeyがわかるわけないじゃない。それ以降のことだってそうよ。認めてくれる人がいても、応援してくれる人がいても、本人が動かなきゃ、なにも始まらないでしょ?』

『最初のときも、カバの歌に一緒に歌いだしたのはあんたよ。あそこで聞いてただけなら今はないわよね。デビューの日も、夜来香をSHINにムリやり歌わされたわけじゃないじゃない。SHINに任しとくこともできたんでしょ?』

ってゴリ。私が自分で動けてたの?

カバがいつもみたいに頭を撫でてくれながら言った。

『神様はね、与えたチャンスに

ちゃんとのっかってくる人間が好きなのよ。』

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