First memory 55

= memory 55 =


J さんの言葉の意味がわからない。

私ではだめなのかな?

なんにもできないし、なんにも知らない。

SHIN さんが心に傷を持っているとしても

何をどうすればいいのかわからない。

そんなわからない人ではだめなのかな?

「・・私は何をできるようになればいいんですか?どうすれば私でもよくなるんですか?」

ようやく言葉が出た。泣いてしまってるけど。

J さんはちょっとあわてて言った。

『いや、cherryがあかんのやなくて、cherryがあかんかったらって話で。』 

違いがわからないよ。

Jさんは、そこで小さく笑った。

『もちろん、帰れへんと思ってたで。ワシが知ってるあんたがほんまのあんたやったら。でもわからへんとまでは・・cherry らしいなあ。SHINはほんまに妖精を見つけたんかもしれんなあ。ごめんごめん、もうええ。SHINの側におったって。ワシは行くわ、時間ないし。SHINにわかったって、よかったなって言うといて。また来週ゆっくりって。』

「はい」と頷いたけど、

結局、私は何をすれば・・。

J さんは

「今のままであいつの側におったって。」

と言って頭を撫でてくれた。

そしてSHINさんの最後の曲の途中だけど、店を出ていった。これから名神高速をどこかに向けて走るのかな。


『あれ?J は?』

ステージが終わったSHINさんがこの間みたいに客席を回ったあとカウンターに来て言った。

「時間がないからって、3曲目の途中で出られました。」

『そっか。3曲目ならいいか。・・どしたの?』

まだちょっと涙が残っていたのに気づいてくれたみたい。どう言えばいいかわからないから、少しだけ首をふった。

「Jさんが、わかったって、よかったなって、また来週ゆっくりとって、おっしゃってました。」

SHINさんは、私の様子がおかしいことに気づいて、私の頭を自分の胸にぎゅっと抱え込んでくれた。

私の頭の上に顎をのせるみたいにしながら、

『控室行こ。ご飯食べよ。』

って言ってくれた。

そのままの姿勢で頷いた。

『なにかあった?』

控室には、食事の用意をしてもらえる。

店に来たときに、メニューから軽食を選べば、休憩時間の間に食べることができた。私はまだ飲み物しか頼んだことないけど。

今日は二人分用意されている。

ピザを食べながらのSHINさんに聞かれたけど、どう答えていいのかわからない。

ただ教えてほしいことはある。

「・・SHINさん、私でいいんですか?私、なんにもできません。料理もできないし、気のきいたお話もできません。女子力ないし、なんにも知らないし、知ろうとしてこなかったし。」

ちゃんと聞こうと思ったのに泣いてしまった。

SHINさんはあきらかに困っている。

ごめんなさい。

『えっと・・J が何を言ったのかわかんないけど、それは僕の質問で。僕でいいんかなって聞きたかったけど。いろいろ話さないとあかんし。話す前にあんなことするべきじゃなかったとずっと反省してた。ごめん。・・今日は一緒に帰れる?』

頷いた。

『じゃ、帰ってゆっくり話すね。僕のこと。』

SHINさんは、私の頭をポンポンと軽く叩いて『いってきます』と言ったから、小さい声で「いってらっしゃい」と答えた。

SHINさんが振り返って笑ってくれたから、私もがんばって微笑んで手を降った。

SHINさんはドアを閉めながら手を振りかえしてくれた。ちょっと元気でた。

でも一緒に食べたマルゲリータの味はまったくわからなかった。


SHINさんが控室のドアを出ていったあと、まだ使い方がよくわかっていない携帯電話でお兄ちゃんにメールをした。

(今日は帰りません。よろしくおねがいします)

お兄ちゃんから、すぐに返事がきた。

(明日は帰れよ)

無視したかったけど

(ワカタ)

と返信した。

ホールではSHINさんの第2ステージが始まっている。

聞きに行こうと思ったけど、ホールに出るドアの前で『シンー!!』っていう女の人の黄色い声が聞こえて、なんとなく変な気持ちになってドアが開けれなかった。

そのまま控室に戻った。ほんとは聴きたいくせに。

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