First memory 39

= memory 39 =


「はい?」

と応えた。

『入ってもいい?』

SHINさんの声!来てくれたんだ!

カスミ草の花束を抱えたまま、ドアを開けた。

『うわ!すごいね。オーナー?』

頷く。

『そうか、よかったね。オーナーはよっぽどのお気に入りじゃなきゃ、花束くれないんだよ。』

SHINさんはそう言いながら控室に入ってきた。

そして、最初に逢ったときみたいに私の姿を上から下まで確認するように見た。

『妖精だね。』

親指と人差し指で四角い箱を作って、そこから覗くみたいにしながら言う。

『カメラ、ちゃんとしたの持ってくればよかった。でもまあ、とりあえず。』

そういうとポケットから、小さなカメラを取り出して写真を撮った。いきなりだったから、ポーズもなにもしてないよ。

変な顔になってないか?

『じゃあ、ちょっと目を閉じてください。いいって言うまで開けないでください。』

かしこまって言った。

わけがわからないけど、目を閉じる。

あっ、そうだ。

「SHINさん、この間は駅まで送っていただいて、ありがとうございました。」

目を閉じたまま言った。

SHINさんは黙っている。

またシャッターの音がした。

『いいえ、どういたしまして。はい、目を開けてください。』

目を開けると、SHINさんがいない?

・・膝まずいていた。

前に抱えていたカスミ草で見えなかったよ。

『二十歳の誕生日おめでとう。2日過ぎたけど、僕からのプレゼントです。足出して。』

右足を出した。

SHINさんは、初めて逢った日みたいに私の足をそっと持つと、ツーちゃんから借りている8センチヒールを脱がせてくれた。

SHINさんの横には、箱に入った新しい白いヒールがある。SHINさんは、HAPPYBIRTHDAYの歌を小さく口ずさみながら、ゆっくりと新しい真っ白なヒールをはかせてくれた。

5センチヒール。ぴったり。足に吸い付くようにフィットする。

『HAPPYBIRTHDAY Dear.cherry HAPPYBIRTHDAY to you.』

歌い終わると立ち上がって何かを言った。それは聞き取れなかった。フランス語?

『cherry、お誕生日おめでと!』

そう言って、にこっと笑った。

涙でそうだ。でも、泣いちゃだめだ。お化粧が崩れる。がんばって我慢しなきゃ。

SHINさんはそんな私の様子に気づいて、机の上からティッシュを取ってくれた。

そしてポケットから何かをだした。

『はい、バンドエイド。』

グッときてたのに!ひどい!でも、笑えた。

「・・ありがとうございます。ぴったりです!・・でもサイズなんで?色も?」

SHINさんは、ちょっと得意そうな顔をした。

『だってドレスの色、白がいいって言っといたもん。サイズは前に履いたヒール、ツーちゃんのでしょ?ぴったりやったやん。』

みんなで打合せて?4人の魔法使いみんなで?

やっぱり、ちょっと泣きそうだよ。

SHINさんはそんな私の様子にあわてて、

『泣いちゃだめだよね?もうすぐだから。』

っておろおろしている。そんな様子もうれしい。


ステキなドレスも着てる。

ガラスの靴も履いた。

お化粧も完璧。

カスミ草の花束もある。

魔法はかかった!

それに、4人の魔法使いがついてくれてる。

おまけにJさんは天才。

大丈夫。歌える。

誰も見たことのないシンガーCHERRYになれるから。

ドアがノックされた。

『CHERRYさん、そろそろ始まります。スタンバイお願いします。』

ホールスタッフの田中さんの声。

「はい」

と返事をした。

なぜだろう、もう少しも怖くない。

カスミ草をテーブルの上においた。

『がんばってね。緊張しないで。』

SHINさんの言葉に微笑んで頷く。

大丈夫。

私、今、みんなの魔法がかかっているから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る