First memory 23
= memory 23 =
最上級にドキッとした。
そしてグレーな雲が心の中に広がり始める。
私の心の中なんて、ゴリさんにはお見通しだ。
『どーして~?私はSHIN 好きよ?』
いつのまにか、私の後に来ていたカバさんの言葉に、どうにか涙を出さずにすんだ。
2対1だい!ううん、3対1だい!J さんもいる!
『ちょっと優しすぎるとこはあるけどねぇ~。』
「・・優しいとダメなんですか?優柔不断?」
泣きそうな声だったんだと思う。
カバさんが頭をよしよしって感じで撫でてくれながら答えた。
『誰にでも優しい男は疲れるわよ。女性がうれしいのは、自分だけに優しい男でしょ?』
カバさんのよしよしと言葉が心に沁みる。
そうなのか、誰にでも優しいんだ。
だから私にも優しいんだ。
確かに、お客さんに笑顔で話してるとこ見るだけでも胸が痛かったな。彼女でもないのに。
『まあ、カバの言うことも一理あるわねぇ。』
とゴリさん。
フンフンと鼻唄を歌ってたツーちゃんも入ってきた。
『それは自分に自信がないからよ!彼が自分に一番惚れてるんだって自信があれば、誰に優しくしててもツーは平気!』
ツーちゃんらしいよ。でも生まれてこの方、自分に自信なんか持ったことない人間に、いきなりそこで持てっていうのはハードル高いよ。
『もちろん、愛される努力は必要よ!』
ツーちゃん、私を見つめて言わないで。
はい、女子力最低です、ってか女子力なんて考えたことなかったです。
ゴリさんは、多分、私の様子を見ながらちょっと笑った。
『カバの意見も、ツーの意見もそのとうりだと思うわよ。でも私が言いたいのはそういうことじゃないのよ。』
ゴリさんは、私に座れって言うみたいに自分の横の席を見た。はい、先生。
『SHINがカメラマンなのは知ってるわね?』
うなづく。
『あいつは報道カメラマンなのよ。報道カメラマン、わかるわよね?』
言葉は知ってる。内戦とかしてる国で写真を撮るジャーナリスト。
ロバート・キャパとか、マグナムってぐらいしか知らないけど。
『これまでも行ってるし、きっとこれからも行くわよ。あいつは日本でコツコツ写真の仕事して、Noon と神戸のお店で歌って、お金貯めて、貯まったら戦場に行くのよ。どこかで内戦が始まったら行くし、いつ帰ってくるかもわからない。むしろ帰ってこない確立も高い。』
こらえてた涙が溢れた。
SHIN さんのステージを見た日から、ずっとこらえてたから。
うつ向いて泣いてしまっている私の隣に、カバさんが座っていた。
肩を抱いてくれる。
ツーちゃんは立ちすくんでいる。
どうしたらいいかわからない感じで。
『私が反対するのはそういうこと。cherryには厳しいでしょ?』
ゴリさんがまた煙草に火をつけた。
カバさんはずっと私の頭を静かに撫でてくれている。
肩を抱いたまんま。
と、がまんしきれなくなったみたいにツーちゃんが叫んだ。
『SHINは死なない!』
ちょっとびっくりしてツーちゃんを見たら、ツーちゃんも泣いてる。
『今までも生きて帰ってきてるんだから!SHINは死なない!未来なんてわからない!お店から出たとたんに、cherryの方が自転車に轢かれて死ぬかもしれないじゃない!』
仁王立ちで、なぜか右手を空に向かって突き上げる。
「ツーちゃん、ありがとう。でもいくら私でも、自転車に轢かれては死なないよ。」
ツーちゃんのおかげで、涙止まったよ。
ちょっと元気でたよ。
ゴリさんもカバさんもちょっと笑ってる。
それにゴリさんが反対する理由が、SHINさんが悪い人だからでなくてよかったよ。
ちょっと落ち着いてきたら、ふと気がついた。
「・・でも、なんで私がSHINさんのこと、好きになったって思うんですか?」
私の素朴な質問に、三人は驚いたような顔をして、声を合わせて言った。
『バッレバレじゃない!!!』
えっ?そうなの?
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