First memory 24
= memory 24 =
JさんからOKが出たのは、彩さんのラストのラスト、9時からのステージを観ることだった。
7時からのでは、Carpentersを歌うからダメだって言われた。
『CHERRYは必ず染まる!』
という断言を、ゴリさんもカバさんも反対しなかったから。
学校の関係でギリギリに到着したら、店内はほぼ満席になっていた。立ち見の人もいる。
その中にSHINさんの姿もあった。
でも近づかずに気づかない顔で、入り口近くに立っていた。
盛大な拍手の中、彩さんが登場する。
ファンの人がいっぱいいるんだ。
さすが彩さん!と思ったけど、そのとたん背筋が寒くなった。
来週1週間を空けて、再来週の月曜日には、私があそこに立つんだ。
コップとかフォーク投げられたらどうしよう。
考えただけで吐きそうになった。
3ヶ月前に断ればよかったよ。
とびきりの後悔で半分帰りたくなっていたところで、Jさんのピアノ〈 Cyndi Lauper - True Colors -〉!
薄いピンク色のドレスに、長い髪をアップにしている彩さんは、色っぽかった。
耳にタコができるほどツーちゃんから
『色気ない!』
と言われている私とはえらい違いだ。
2歳しか違わないなんて、誰が思うだろう。
彩さん22歳。私はあと数日で二十歳。
ため息がでちゃうよ。彩さんの色っぽさと、自分のAカップの胸に。もちろんAカップのせいだけじゃないけどさ。
そんな風に彩さんに見とれたり、自分に落ち込んだり、再来週を思って暗くなるのに忙しくて、いつの間にか隣にSHINさんがいることに気づかなかった。不覚。
『なんか、大丈夫?赤くなったり青くなったりして、夜中の信号みたいだけど。』
SHINさんは笑いながら言うと、ハイとグラスをくれた。オレンジジュース。
『今日は、この間と感じが違うね。壮行会でるの?』
すっかり忘れてたよ。ヒールの靴 履いてるんだ。
クリーム色のロングブラウスは、ツーちゃんのお見立て。アクセサリーとベルトはツーちゃんの。黒のレギンスパンツは最近買った安物。
5センチヒールのショートブーツだけ、今日のために自分で選んだ。
細いヒールのショートブーツ。このブーツに一目ぼれしてたんだ。でもおかげでプレデビューの衣裳予算を使いきってしまって、ブラウスしか買えなかったんだけど。
『なんでそんな高額い靴買うのよ!ステージでも履けないのに!』
って、ツーちゃんにもゴリさんにも叱られたけど。
5センチのヒールのおかげで、この間とはSHINさんの見え方が違うんだから。大丈夫なんだから。
オレンジジュースを飲みながら、そんなことを思っていた。
ヒールの靴って、ちょっと強くしてくれるのかもしれないぞ。背伸びをしてる分だけは。
彩さんの歌には、盛大な拍手が続いている。
『・・最後の曲になりました。皆様、2年間応援していただいて、彩の歌を聴いていただいて、ありがとうございます。6ヵ月後、もっともっとステキな歌がお届けできる彩になって帰ってきます!その時まで、待っていてください。』
MCもかっこいい。色っぽい。ため息。
!MC・・・!するの?私も。しないといけないの?
そういえば、ステージのあと、SHINさんテーブル廻ってたよね?あれもするの?
しないといけないの?
それどっちも、無理だよね?練習もしてないよね。MCって何話すの天気の話とか・・なわけないよね。
再来週だというのに・・・私は何も準備していないじゃない。
MCも、挨拶も、ドレスも、靴も。
どうしよう・・・。魔法使い出てきて!
彩さんの最後の曲<Sweet Memories >が始まった。
どっかで聴いたことある。松田聖子?
『この曲は、彩のデビュー曲だよ。2年前、ここで最初に歌った曲だね。確かにうまくなったなあ。あの頃から比べると。』
SHINさんはしみじみと言った。
あっ、またちょっとジェラシー?
私はヤキモチやきらしいぞ。誰にでも優しいユージューフダンは、だめなんだろうなあ。
それにしても、彩さん色っぽい。オンナの私でもどきどきする。
Jさんのピアノも色っぽい。私のときとは感じが違う。
Jさんがいつも言うこれが『艶』ってやつかあ?
『チェリーちゃんは、チェリーちゃんでいいんだよ。真似しようとしなくてもね。』
SHINさんの言葉に、(それは元来、無理なお話と思っているんですね?)とちょっとイジワルな感じで心が思った。
(誰にでも優しいユージューフダンなんですよね?)
彩さんは大喝采を浴びて歌い終わり、深々と頭を下げた。
Jさんもピアノから立ち上がってお辞儀をした。
何人ものお客さんが花束を彩さんに渡している。
それをひとつひとつ受け取っている間に、花束で彩さんの顔が隠れてしまった。
■Today ' s Favorite sounds ■
True Colors / Cyndi Lauper
sweet memories cover/松田聖子
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