First memory 21

= memory 21 =


『来週の彩のラストステージ、見にくるか?』

練習のあと、ふいにJさんが言った。その言葉をどれほど待っていたことか!

Jさんが少しひくほど、ぶんぶんとうなづいた。

『開店中の店の感じも、わかっとかなあかんしなあ。』

その言葉に胸が痛くなる。ごめんなさい。見てしまいました。Jさんにだめって言われたのに。

Jさんに言うかどうか迷っている間に、今日まできてしまった。でも、今言わなければ絶対後悔する!

「Jさん、ごめんなさい!」

かなり大きな声だったみたいだ。Jさんが煙草の火を着けようとしたライターを落とした。

『どないしたん?』

ライターを拾いながら言う。

「私、見てしまったんです。SHIN さんのステージ。」

Jさんは、拾らったライターで煙草に火をつけながら『そうか』と言った。

「ごめんなさい。」

『しかし・・・自分から言うか?』

Jさんが笑っているように感じる。でも頭を下げたままだからわからない。

『チェリーやなあ。まあ、ええよ。SHIN のステージどっち見たん?7時からのか?』

顔を上げてうなづく。

『ほんだら、クラシックやったやろ?』

「はい。(Tempest)と(Honesty )と(Missing)でした。ごめんなさい。」

Jさんは煙草をくわえたまま、ちょっと意外そうな顔をした。

『歌ったん?7時からので?』

もう一回うなずいた。

『・・へえ・・』

そう言ってちょっとにやっとした。

『Tempest、Honesty 、Missing ・・。ふーん。』

もう一度、そう言って笑った。

『SHIN はええヤツやで。あれでなかなか地味な考え方しよるしなあ。わしは好きやな。男として。ただ、ちょっと仕事がややこしいのと優柔不断なとこがなあ。』

紫煙を追いながら、独り言のように言う。

「優柔不断?」

聞き返すとちょっとあわてる。

『いや!優しいんや。優しすぎる時がある。見る方向やな。その時の状況や人の捕らえ方で、同じ側面でも、優しさに見えたり、優柔不断に見えたりする。そんなもんやろ?短所は長所の裏返しやな。意思が強い人は、がんこもんやったり。』

Jさんは自分の言葉に納得しながら、うんうんとうなずいた。

そうなんだ。いい人なんだ。ちょっと良かったよ。なんか、よかったよ。

『ふ~ん、そうか・・・7時からので歌ったか。ふ~ん。Tempestと、Honesty とMissing なぁ。ふ~ん。』

Jさんは、にやにやしながら煙草をふかした。

『そやそや、彩のラストステージのあと、壮行会するから、あんたもおいでな。家に遅くなるって言うときや。』

Jさんは、こちらを見ずに続けた。

『ほんで、壮行会で、あんたも1曲歌いな。いろいろ慣れた方がええし、プレデビューな。』

心臓が飛び出しそうです。

『まあ、うちうちのメンバーやから、リラックして、のんきに歌ったらええんや。』

あっ、そなんだ。ちょっとほっとした。

『まあ、でもみんなプロやけどな。』

あげたり、さげたりしないでください!

倒れそうです!

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