CHERRY =one night call =

moco

=epilogue1=からのPROLOGU

= prologue =



娘が眠ってくれた。

ようやく私の時間が来る。

大きく伸びをしたところに、電話が鳴った。


「はい」

『・・・なんで、アンタが出るのよ?』

いきなり、ごつい声に言われる。

「はあ?」

「・・はあって、cherryでしょ!アンタ、嫁に行ったんでしょ?」

ごつい、おっさんの声が、私の中でただ懐かしい響きに変わる。

「ゴリだね」

『何よ!すぐ気づかなかったの?ホント失礼なやつね!』

ちょっと、響きが優しくなった気がした。

「10年ぶりだよ。わかんないよ。」

『アンタ、嫁に行ったのに、なんで実家にいんのよ!わかったダンナの浮気が原因で、離婚して、出戻ってるんでしょ!』

ズボシだった。ゴリにはなんでもお見通しだ。

「元気なの?」

『当然でしょ!』

「カバも?」

懐かしすぎる日々が蘇ってくる。

私の人生の中で、24時間が一番短かった時代。

『カバは死んだわよ!』

ゴリは、『カバが寝坊した』というのと、同じくらい簡単に言った。

「なんで?」

『バッカじゃないの?オカマが早死にって言ったら、エイズに決まってるでしょ!3年前よ!まだ30代だったのよ!』

もっとずっと年上だと思っていたよ。

「なんで教えてくれなかったの?」

『電話したわよ、この番号に。カバはアンタに会いたいって言ったから。でもお母さまがアンタ結婚したって。番号教えてもらったけど、かけなかったのよ。』

「かけてくれたら良かったのに。」

『お宅の嫁に会いたがっているエイズで死にかけているオカマがいるなんて、言えるわけないじゃい!

カバもそう言って笑ってたわよ。cherryが幸せならばよかったって、もういいって。』

そう、カバはいつも優しかった。いつも私の爪の手入れをしてくれていた。ごめんカバ、また甘皮の手入れしてなかったよ。

「ゴリ、会いたいよ。カバのお墓参り行きたいよ。連れていってよ」

『悪いけど、一人で行って。カバのお墓は四天王寺の集団墓地よ!私は一緒に行けないわ。』

「なんでよ」

『次は、私が死ぬのよ。腹たつのよ。癌よ。』

ゴリは、昨日 飲みすぎたって言うみたいに言った。

「癌でも、死ぬって決まってないじゃん!」

『死ぬのよ、わかってるの!もう末期であと数週間じゃないの?だから電話したのよ。

アドレス帳から順番にかけて、アンタの実家になったってだけよ。

まさかいるとは思わなかったけどね。』

「里帰りで帰ってるだけとは、思わないのかよ?」

『実家でゆっくりしてる幸せな女が、そんな声ださないわよ。cherryのとびきり疲れてるときの声じゃない!』

ゴリには、なんでもお見通しだ。

15年前から。

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