アタシの野望

@Keteru-9884

アタシの野望

ファイ‼︎ ファイ‼︎ シタァァー


ーーー今日もまた朝がやってきた。ウチに泊まっている大学生の朝の掛け声がほのかに白んでゆく明け方に響く。毎朝やってて飽きないの?てか、今日お正月なんですけど⁉︎


ここは野沢温泉村、日本でも有数の温泉街。昨今スキーブームが下火になる中でもまだ勢いを残す日本でも数少ない村。


前述したとーり、お正月なのですが、毎年ここ野沢では、旧帝国大学が集まってスキーの大会をしている。さっきの掛け声はウチに泊まってる大学の生徒さん達。頭がイイはずなのになんでこんなことしてるんだか…まあ、元々この業界でアタマがまともな人はいないんだけど…


アタシの朝の仕事はまずお母様、お祖母様が朝早く起きて作ってくださったありがた〜い朝ごはんを食堂に運ぶこと。


「Good morning! You look beautiful today,as always!」


「Thanks, you looks so bad today , as always. You should wash your face again!」


と英語で減らず口をうちの常連さんのトムさんに返したりしながら、全員分の食事を運び終える。実際の話トムさんの顔は昨日の大晦日パーティのせいか相当悪かった。具体的に描写するのはやめるけど。


というようにこの村には多くの外国人が訪れる。誇張抜きにこのシーズンには街の通りが金髪の人でいっぱいになる。アタシも小さい頃からこの仕事を手伝ってるわけで外国人と話す機会には困らず普通の子よりも全然英語を話せる自信がある。(ま、アタシが天才ってのもあるけどね)実際大学生のお兄さんにもオレよりよっぽどうまいよと言われたし、あながち嘘でもない…はず…これにはアタシの大いなる野望のために必要な技能だから当然なんだけど。


そのあとは部屋の掃除をしてから(大学生の部屋ってなんでこんな汚いワケ?)大学生と同じく朝から大会の運営をしに行ったお兄ちゃんに弁当を届けにいくのがアタシの次なる仕事。


家を出て凍結防止のための水が流れる道路を陽を受けてきらめく雪の中走る。たまに都会の人はこけたりしてるけど、アタシにとっては星の数ほど通った道。転ぶ要素など欠片もない。雪が降り積もってる神社の隣を通って遊ロードに乗る。遊ロードってのは冬季限定の動く歩道のこと。ウチの自治体って結構金あるのよね…


こっから見る景色はアタシのお気に入りの景色のウチの一つだ。雪化粧した神社の厳かな佇まいを眺めてるとなんか心が落ち着く。あんまり神様を信じてるわけじゃないけどこういう在り方が正しいんじゃ、なーんて考えたりもする。


ここからちょっとした裏技でゴンドラに乗る。地元民にはいろいろコネがあるのよね。高地の景色ってのはさっきの景色とはまた一味違う。一面の銀世界に、木々が雪を纏って幻想的な景色を作り出す。雪とともに吹き抜ける風が冬の美しさとともに厳しさを感じさせてくれる。ゴンドラを降りるとその風が身を突き刺し、吐く息が白く染まる。アタシにとってはなんてことはないことだけど、東京じゃこんなことも滅多にないというのだから想像もつかない…


そんな東京や、関西から来てる人が競技スキーをしてるっていうのはなかなかにすごい。今のところ総合順位的には東北から来てる大学が勝ってるらしいけど、その次の順位に某赤門大学が位置してる。なんか意外。


お兄ちゃんは地元のスキー協会に所属していてスキー選手としても身内贔屓抜きでなかなかのものだ、と思う。この大会でもトップ層はお兄ちゃんには劣るけどもそこそこの者というのだからそれまたすごい。彼らは一体いつ勉強してるワケ…?


そうこうしてるうちに丁度レースも終盤に入ったようで、多くの選手が巻き返しを図っている。固められた雪の道をたくさんの選手が板を走ら、白銀の中汗が舞い散る。あんまりアタシはスキーを好きじゃないが、こーゆうのを見てるのはまあ、嫌いじゃない。


男子15キロクラシカルは先ほど行った某赤門大学の生徒が優勝したらしい。あんまりアタシのタイプではないし、お婿さん候補には入れられないかな。アタシの野望にもそわなさそう…


ここまでもきてやっとこさアタシのお正月のノルマが終わる。正月も無償で働いたげるアタシってなんてえらいのかしら…!


仕事終わりにアタシは近所の熊の手洗い湯に入る。野沢には外湯というタダで入れる温泉があり、アタシが入ってる湯もその一つ。ここは一番新しい湯で檜のいい匂いが体を包んでくれる。ここで出会う人々との関わりは、まだ知らぬ外の世界を垣間見ることはアタシにとっての大きな刺激だ。…あと大人の女性の身体を見れるのもね。アタシも将来はあんなグラマラスボディに…!


風呂上がりにはこの村で一番のオシャレスポットであるジェラート屋さんでジェラートを食べる。これも勿論コネがあるのでタダだ。地元特権ってスゴイ!サイコー!まあ、こんなだけ働いたんだから多少のリターンも必要なワケですよ。なーんて。


硝子越しにはこの村一番の通りをチラチラと降る雪の中多くの人々が、子連れの家族、サークルで旅行しに来た人、カップルが歩く姿がボンヤリと映っている。その様子は少し歪な万華鏡のようだ。


そろそろ先ほど口にしていたアタシの野望について話そう。店を出たアタシは高台から野沢を一望する。眼前にはゆっくりと沈む夕陽を受けて野沢の街が輝く姿がある。勉強頑張って東京に行ってそこでイケメンエリートな将来の旦那様を捕まえる。そして彼と一緒に野沢をもっと繁栄させ、その利権をアタシ達が牛耳るのだ!大人はみんななあなあにしているけれど野沢もこのままじゃヤバイと思うワケ。そこでアタシがこの村を変える、変えてみせる。なぜかって?この村がアタシの故郷で愛しているから!あと、お金もね!


今日も野沢に夜の帳が下りる。そして夜の騒乱の後にまた活気に満ちた明日がやってくるのだろう。

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