第112話 海女の塩焼く煙 【万】

昔、ある男が、懇切に言って約束した女が、他の男に心を移してしまったので


 風が強いので、須磨の海女が塩を焼く煙が、思わぬ方向へたなびいてしまった。


【定家本】

昔、男、ねむごろにいひちぎりける女の、ことざまになりにければ、

 須磨のあまの 塩焼く煙 風をいたみ 思はぬ方に たなびきにけり  


【朱雀院塗籠本】

昔男。ねんごろにいひちぎれる女のことざまに成にけるを。

 すまのあまの 鹽燒けふり 風をいたみ 思はぬ方に 棚引にけり


【真名本】

昔、男、鄭重ねむごろに云ひ契りける女の、異様ことざまになりにければ、

 須磨の泉郎あまの 塩焼く煙 風を痛み おもはぬ方に 棚引きにけり


【解説】

『万葉集』07-1246

 しかの海女の 塩焼く煙 風をいたみ 立ちは上らず 山にたなびく

右件歌は古集中に出づ、とある。

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