第74段 磐根踏み 【万】

昔、ある男が女をひどく恨んで


 岩根を踏んで積み重なる山を登るのではないが、ものも言わず、会うこともない日が多く続き、いつも恋しく思っています。


【定家本】

むかし、男、女をいたう怨みて、

 岩根ふみ かさなる山は あらねども 逢はぬ日おほく 恋ひわたるかな


【朱雀院塗籠本】

むかし。女をいたううらみて。

 岩根ふみ かさなる山は へたてねと あはぬ日おほく 戀渡る哉


【真名本】

昔、男、女を痛う恨みて、

 磐根いはね踏み 重なる山は へだてねど はぬ日多く 恋ひ渡るかな


【解説】

『万葉集』11-2422

 石根踏み なれる山は あらねども 逢はぬ日あまねみ 恋ひわたるかも

『拾遺集』では大伴坂上郎女の歌とする。

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