第53段 いかでかはとりの鳴くらむ

昔、男が、なかなか会えないでいた女にやっと会うことができて、夜物語などしているうちに、夜明けを告げるニワトリが鳴いた。


 どうしてニワトリが鳴くのだろうか。あなたを私が思う心はまだ十分に伝えていないのに。


【定家本】

昔、男、あひがたき女にあひて、物語などするほどに、鶏の鳴きければ、

 いかでかは 鶏の鳴くらむ 人しれず 思ふ心は まだ夜ぶかきに


【朱雀院塗籠本】

むかしおとこ。ありあひ一本がたかりける女に。物がたりなどするほどに。とりのなきければ。

 いかてかくは 鳥のなくらん 人しれす おもふ心は また夜深きに


【真名本】

昔、男ありけり。会ひ難かりける女に会ひて、物語するほどに、鳥の鳴きければ、

 如何いかは 鳥の鳴くらむ 人知れず 思ふ心は 夜深よぶかきに


【解説】

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