赤ウサギ
大澤大地
第1話赤ウサギ
赤ウサギ
深い深い森の中、小鳥は歌うようにさえずり、木々は太陽の恵みをたっぷり受け取りながらその喜びをさざめき合う。
「おはよう、栗の木さん」
赤ウサギは陽気に挨拶をし、鼻歌を歌いながら歩いていく。そんな赤ウサギの後ろに怪しい一つの影が迫っていた。
「やあ、お出かけかい?」
オオカミは優しい笑顔で話しかけた。
「そうよ。おばあさんに会いに行くの」
「そうか、優しいお嬢さんだね。おばあさんの家は遠いのかい?」
「ヒルガオの花が閉じるころには着くわ」
「そうかい、じゃあここらで一休みでもして行こう」
「そうね、そうするわ」
二匹は小さな池のほとりに腰かけた。辺りには小さな花がたくさん咲いていた。
「んー、お花のいい香り」
「そうだね、お肉のいい香り」
「ん?今なんて言ったの?」
すると突然、オオカミは赤ウサギに襲いかかった。赤ウサギは必死に逃げた。
「悪いようにはしないよ。爪で引き裂いたり牙で食いちぎったりなんてしない。ナイフできれいに切り取って塩を振って鉄板の上で焼くだけだから。だから大人しくしてね」
「結局私を食べるのね?」
「そうだよ。おいしそうなウサギさん」
「じゃあ私じゃなくても、ほかのウサギでもいいのよね?」
「おいしいウサギさんならね」
するとウサギは鶴に化け、飛び上がる。
「じゃあ他をあたってくれるかしら?」
オオカミは鶴に飛び掛かるも爪は届かず、地面に叩きつけられる。
「ちくしょう!」
オオカミはよだれを垂らしながら吠え続けた。
飢えたオオカミは辺り構わず吠え散らし、動くものがあれば見境なく飛びついた。リス、サル、キツネ、コオロギ、何にでも飛びついた。しかしこれだけ目をギラギラ輝かせていれば獲物もすぐに気配を察し、逃げられてしまう。正気を無くしたオオカミは、ついには仲間のオオカミにも牙をむき、襲いかかった。しかし返り討ちに会ったオオカミは、仲間からも孤立してしまう。仲間から見放され、食事にもありつけないオオカミは、やがてガリガリにやせ細り、飢えて死んでしまった。
オオカミは遠のく意識の中、祈るような囁き声を聞いた。
「かわいそうなオオカミさん。あなたが優しい草食動物だったなら、楽しく語らいながら一緒においしい木の実でも食べたのに」
赤ウサギ 大澤大地 @zidanethe3rd
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